「12.06蒲原沢土石流災害第2回シンポジウム」講演要旨
96年12月小谷村土石流災害時に見られた山岳部高温状態
牛山 素行(科学技術振興事業団・研究員)
北澤 秋司(信州大学農学部・教授)
田中 博春(東京都立大学・院)
1. はじめに
1996年12月6日に、長野県小谷村において発生した土石流災害では、発生前日の降水が、土石流発生の誘因の一つとなったと考えられる。しかし、この降水は小谷村付近で50mm程度と、さほど多いものではなかった。しかし、その後の調査により、土石流発生前日は山岳部において高温状態が発生しており、降水はほとんどが雨として降り、かつ高温により融雪も進んだことを示唆する資料が得られたので報告する。
2. 利用資料
利用した資料は、気象庁のAMeDAS小谷(降水量、積雪量)、同白馬観測所(気温、風、降水量、積雪量)の資料のほか、長野県大町建設事務所所管の南小谷観測所(気温、積雪量、510m、以下標高で表記)、栂池観測所(気温、積雪量、700m)の資料、白馬観光開発株式会社所管の栂の森観測所(気温、風、積雪量、1560m)の資料を用いた。この他、これら観測所の近傍に位置するが資料所管元の意向により観測所位置および所管を公表できない観測所(気温、風、積雪量1340m)の資料も用いた。各観測所の位置を図1に示す。
図1 資料利用観測所位置図
3. 結果
3.1. 気温の推移
土石流発生前後の1560m、700m、510mの気温の推移を見ると図2のようになる。各地点とも、12月に入ってから寒い日が続いており、12月4日の午後から、やや気温の高い状態が続いていたことがわかる。また、5日の正午前後には1560mの気温が、他の地点の気温より高く、気温が逆転状態にあったことがわかる。この逆転状態をより詳しく見るために、これら観測所と1340mの観測所の資料を用いて気温鉛直分布の時間変化図を作成すると図3のようになり、土石流発生前日の5日は、1560m、1340mとも、ほぼ終日に渡って気温が510m、710mよりも高いか同程度であり、0℃以上の状態が続いていたことがわかる。また、気温の変化の特徴から見る限りでは、この高温・逆転状態は、山岳域に高温の気塊が進入し、これが低標高域までは広がらなかったことによって形成されたものと思われる。輪島の高層観測値によると(図4)、12月5日は850hPa(上空約1500m相当)付近では気温逆転の状態は見られないが、12/5の09時を中心に、気温の高い状態が続いていたことがわかる。また、温位の変化(図5)から見て、この高温状態は、上空への強い暖気の進入によって形成されたものと考えられる。
図2 土石流発生前後の気温の推移
12/01の1560mは欠測
図3 現地付近の気温鉛直分布経時変化
図4 輪島の高層観測による気温の経時変化
図5 輪島の高層観測による温位の経時変化
3.2. 積雪量の推移
土石流発生前後の各観測所の積雪量の推移を見ると図6のようになる。12月1日にまとまった降雪があり、その後積雪量が減り、12月5日にまとまって減少している点は、各観測所に共通である。12/2〜12/3の間降水は記録されておらず、また、1340m、1560mについては、気温が0℃以上となった時間は全くないことから、この間の積雪量の減少は、おおむね積雪の密度の変化によるものと思われる。一方、5日の減少は高温および降雨による融雪によるものと思われる。なお、1560mのみは、5日の朝方に積雪量が増加しており、この標高帯では、5日の降水が、当初雪として降り、07時頃から雨に変わったことがうかがえる。 5日の積雪量の減少量は地点によって多少異なるが、おおむね20〜30cm程度であった。当日の積雪の密度に関しては十分な資料がないが、一般に新雪の場合0.1g・cm-3 、融雪期の場合0.5g・cm-3程度といわれている。前述のように、12/1の降雪は、12/4までの間に密度を大きくしていたものと考えられるので、当日の密度は少なくとも0.1g・cm-3 よりは大きくなっていたものと思われる。0.1g・cm-3の場合、20cmの融雪は20mmの降水量に相当する。当日の降水量は、50mm程度であったことを考慮すると、融雪分も合わせた降水量は、少なくとも70mm相当以上であり、場合によっては100mmを越えた可能性も否定できない。
図6 各観測所の積雪量の推移(cm)
図7 栂の森(1560m)の積雪量と気温推移
12/2の一部は欠測