1999年6月29日に広島県付近で発生した豪雨災害の特徴

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1999年6月29日に広島県付近で発生した豪雨災害の特徴

速報第一報(1999/07/04、07/18誤り訂正)

牛山素行(京都大学防災研究所COE研究員)


はじめに

 1999年6月28〜30日にかけて、梅雨前線の活動による全国的な豪雨が発生した。この豪雨により、広島県を中心として、多くの人的被害を含む災害が発生した。ここでは、特に広島県における災害に着目し、災害の概要と豪雨の特徴を、主として気象庁関係の資料を元に報告する。


概況

 1999年の日本列島は、6月上旬に各地で相次いで梅雨の状態となった。広島では、6月6〜7日にかけて総降水量100mm程度のまとまった雨が降ったが、その後10日ほどは無降水日が続いた。17日以後は、断続的に雨の降る日が続き、6月1日から27日までの総降水量は広島:310mm、可部:307mm、呉:334mmと、広島周辺でいずれも300mm程度になった。広島の6月の月降水量平年値は272mmであり、この時点、すなわち先行雨量が格別多かったとは言えない。
 22日頃からは梅雨前線の活動が活発となり、西日本各地で強い雨が断続した。27日頃からは、九州北部を中心に強い雨となった。この雨域は北東〜南西の方向に広がり、次第に東へ移動した。


広島の1999年6月の降水量推移


被害状況

 7月3日現在の消防庁資料によれば、6月22日以後の豪雨による全国の被害は、死者・行方不明者37名(内広島県31名)、住家全壊・半壊・一部破損469棟(同341棟)、住家の床上・床下浸水14804棟(同3763棟)とのことである。都道府県単独の被害高としてみると、1971年以降の災害の中では、1993年の鹿児島県で発生した2度の豪雨事例に次ぐ程度の規模のものと位置づけられる。広島県についてみれば、1972年7月9〜13日の梅雨前線による豪雨災害時の被害に次ぐ規模であると言える。

1971年以降の人的被害の大きかった豪雨災害事例(都道府県単位)

「異常気象・気象災害報告」(気象庁)を元に集計

府県 月日 月日 死不明者 家屋被害 浸水家屋 記事
鹿児島 71 801 805 47 416 10740 台風7119
千葉 71 906 907 55 133 6590 秋雨前線及び台風7123
三重 71 909 910 42 103 1290 秋雨前線
熊本 72 703 706 122 1976 16150 湿舌
高知 72 704 706 61 12 0 湿舌、土讃線繁藤の救出二次災害
愛知 72 709 713 66 528 5280 梅雨前線
広島 72 709 713 39 818 17200 梅雨前線
岐阜 72 709 713 27 211 3150 梅雨前線
島根 72 709 714 25 2166 34800 梅雨前線
福岡 73 730 731 28 112 37400 低気圧及び前線
青森 73 829 830 29 0 216 低気圧及び前線
香川 74 706 706 29 274 10310 台風7408及び前線
静岡 74 707 708 44 652 73700 台風7408及び前線
高知 75 816 817 72 1716 30100 台風7505
鹿児島 76 622 626 32 140 1376 梅雨前線
香川 76 908 913 50 961 19100 台風7617
長崎 82 723 725 299 523 28200 低気圧及び前線。長崎豪雨。
島根 83 720 723 107 3600 13990 梅雨前線
鹿児島 93 806 806 49 479 11051 停滞前線(梅雨前線)
鹿児島 93 902 903 33 835 5021 台風9313

 

降水量時系列変化

 広島県内では、28日夜から雨となり、29日夜まで降り続いた。特に、29日13時頃から19時頃の間、30mm/h以上の強い雨が県内の何ヶ所かで記録された。雨域の中心は時間と共に細かく変動しているようで、現時点では詳細は言及できないが、広島市周辺では、28日夜からほぼやむことなく雨が降り続いていたが、29日14時頃から急激に雨脚が強まった模様である。AMeDAS観測所の中でもっとも強い1時間降水量を記録したのは呉であり、15〜16時の間に70mm、15〜17時の2時間に136mmを記録している。雨は、広島県全域で、21時頃までにはほぼ上がった模様である。


 

降水量分布

 広島周辺のAMeDAS観測所データによる準平年値と、6月29日の降水分布を以下に示す。今回の豪雨時に、AMeDAS観測所で最も大きな日降水量を記録したのは広島・島根県境付近の大朝(199mm)であり、ここを中心とした豪雨域が北東〜南西方向に広がっている。この豪雨域との南東方に、呉(185mm)を中心とした豪雨域があり、その間の広島(97mm)、志和(109mm)などは降水量が少なく、豪雨域の谷間のようになっている。ただし、AMeDASによる分布図だけを見ても雨域はかなりばらついた分布をしており、特に広島市西部の佐伯区付近で多くの被害が発生していることを考え合わせると、大朝を中心とした豪雨域は、この図よりもっと南西方向に伸びているか、より強い豪雨域が見落とされている可能性も高いと思われる。
 準平年値で、広島付近で最も多くの降水量を示しているのは山口・広島・島根3県の県境付近であり、今回の分布とはかなり異なっている。この事から、今回の豪雨は、平均的な雨の降り方とは異なり、局所的、かつ集中的に降ったものであることが推測される。


 

既往豪雨事例との比較

 観測開始以来の広島・呉の日降水量、1時間降水量の順位を以下に示す。広島、呉とも観測所の開設時期が古く、特に広島については、 日降水量、1時間降水量とも過去100年間以上の統計が得られる。広島は前述のように豪雨域の谷間に位置していたと思われるので値が小さいが、呉の豪雨は、日降水量、1時間降水量とも既往最大値を上回るものではないが、上位に位置する記録であると言える。広島、呉の既往記録が似通っていることから、これは、呉に限定されるものではなく、広島、呉周辺地域にとっても同様に位置づけられるものと思われる。

観測開始以来の広島・呉の1時間降水量の順位

「平成9年 気象庁年報」(気象庁)を元に集計

地点 広島
統計期間 1888〜1997 1920〜1997
順位 降水量 起日 降水量 起日
1 79.2 1926/09/11 74.7 1967/07/09
2 73.0 1905/08/07 67.1 1924/09/12
3 70.4 1950/09/07 66.0 1991/07/13
4 66.7 1940/09/05 66.0 1991/07/12
5 59.5 1987/08/13 58.5 1995/07/03
今回 15.0 1999/06/29 70.0 1999/06/29



観測開始以来の広島・呉の日降水量の順位

「平成9年 気象庁年報」(気象庁)を元に集計

地点 広島
統計期間 1879〜1997 1894〜1997
順位 降水量 起日 降水量 起日
1 339.6 1926/09/11 221.8 1945/09/17
2 223.0 1982/07/16 212.9 1967/07/09
3 197.1 1945/09/17 205.0 1972/08/21
4 187.2 1965/06/20 173.2 1960/07/07
5 183.5 1930/08/13 162.5 1910/09/06
今回 97.0 1999/06/29 185.0 1999/06/29

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