1999年6月28〜30日にかけて、梅雨前線の活動による全国的な豪雨が発生した。この豪雨により、広島県を中心として、多くの人的被害を含む災害が発生した。ここでは、特に広島県における災害に着目し、災害の概要と豪雨の特徴を、主として気象庁関係の資料を元に報告する。
1999年の日本列島は、6月上旬に各地で相次いで梅雨の状態となった。広島では、6月6〜7日にかけて総降水量100mm程度のまとまった雨が降ったが、その後10日ほどは無降水日が続いた。17日以後は、断続的に雨の降る日が続き、6月1日から27日までの総降水量は広島:310mm、可部:307mm、呉:334mmと、広島周辺でいずれも300mm程度になった。広島の6月の月降水量平年値は272mmであり、この時点、すなわち先行雨量が格別多かったとは言えない。
22日頃からは梅雨前線の活動が活発となり、西日本各地で強い雨が断続した。27日頃からは、九州北部を中心に強い雨となった。この雨域は北東〜南西の方向に広がり、次第に東へ移動した。
7月3日現在の消防庁資料によれば、6月22日以後の豪雨による全国の被害は、死者・行方不明者37名(内広島県31名)、住家全壊・半壊・一部破損469棟(同341棟)、住家の床上・床下浸水14804棟(同3763棟)とのことである。都道府県単独の被害高としてみると、1971年以降の災害の中では、1993年の鹿児島県で発生した2度の豪雨事例に次ぐ程度の規模のものと位置づけられる。広島県についてみれば、1972年7月9〜13日の梅雨前線による豪雨災害時の被害に次ぐ規模であると言える。
府県 | 年 | 月日 | 月日 | 死不明者 | 家屋被害 | 浸水家屋 | 記事 |
鹿児島 | 71 | 801 | 805 | 47 | 416 | 10740 | 台風7119 |
千葉 | 71 | 906 | 907 | 55 | 133 | 6590 | 秋雨前線及び台風7123 |
三重 | 71 | 909 | 910 | 42 | 103 | 1290 | 秋雨前線 |
熊本 | 72 | 703 | 706 | 122 | 1976 | 16150 | 湿舌 |
高知 | 72 | 704 | 706 | 61 | 12 | 0 | 湿舌、土讃線繁藤の救出二次災害 |
愛知 | 72 | 709 | 713 | 66 | 528 | 5280 | 梅雨前線 |
広島 | 72 | 709 | 713 | 39 | 818 | 17200 | 梅雨前線 |
岐阜 | 72 | 709 | 713 | 27 | 211 | 3150 | 梅雨前線 |
島根 | 72 | 709 | 714 | 25 | 2166 | 34800 | 梅雨前線 |
福岡 | 73 | 730 | 731 | 28 | 112 | 37400 | 低気圧及び前線 |
青森 | 73 | 829 | 830 | 29 | 0 | 216 | 低気圧及び前線 |
香川 | 74 | 706 | 706 | 29 | 274 | 10310 | 台風7408及び前線 |
静岡 | 74 | 707 | 708 | 44 | 652 | 73700 | 台風7408及び前線 |
高知 | 75 | 816 | 817 | 72 | 1716 | 30100 | 台風7505 |
鹿児島 | 76 | 622 | 626 | 32 | 140 | 1376 | 梅雨前線 |
香川 | 76 | 908 | 913 | 50 | 961 | 19100 | 台風7617 |
長崎 | 82 | 723 | 725 | 299 | 523 | 28200 | 低気圧及び前線。長崎豪雨。 |
島根 | 83 | 720 | 723 | 107 | 3600 | 13990 | 梅雨前線 |
鹿児島 | 93 | 806 | 806 | 49 | 479 | 11051 | 停滞前線(梅雨前線) |
鹿児島 | 93 | 902 | 903 | 33 | 835 | 5021 | 台風9313 |
降水量時系列変化
広島県内では、28日夜から雨となり、29日夜まで降り続いた。特に、29日13時頃から19時頃の間、30mm/h以上の強い雨が県内の何ヶ所かで記録された。雨域の中心は時間と共に細かく変動しているようで、現時点では詳細は言及できないが、広島市周辺では、28日夜からほぼやむことなく雨が降り続いていたが、29日14時頃から急激に雨脚が強まった模様である。AMeDAS観測所の中でもっとも強い1時間降水量を記録したのは呉であり、15〜16時の間に70mm、15〜17時の2時間に136mmを記録している。雨は、広島県全域で、21時頃までにはほぼ上がった模様である。
降水量分布
広島周辺のAMeDAS観測所データによる準平年値と、6月29日の降水分布を以下に示す。今回の豪雨時に、AMeDAS観測所で最も大きな日降水量を記録したのは広島・島根県境付近の大朝(199mm)であり、ここを中心とした豪雨域が北東〜南西方向に広がっている。この豪雨域との南東方に、呉(185mm)を中心とした豪雨域があり、その間の広島(97mm)、志和(109mm)などは降水量が少なく、豪雨域の谷間のようになっている。ただし、AMeDASによる分布図だけを見ても雨域はかなりばらついた分布をしており、特に広島市西部の佐伯区付近で多くの被害が発生していることを考え合わせると、大朝を中心とした豪雨域は、この図よりもっと南西方向に伸びているか、より強い豪雨域が見落とされている可能性も高いと思われる。
準平年値で、広島付近で最も多くの降水量を示しているのは山口・広島・島根3県の県境付近であり、今回の分布とはかなり異なっている。この事から、今回の豪雨は、平均的な雨の降り方とは異なり、局所的、かつ集中的に降ったものであることが推測される。
既往豪雨事例との比較
観測開始以来の広島・呉の日降水量、1時間降水量の順位を以下に示す。広島、呉とも観測所の開設時期が古く、特に広島については、 日降水量、1時間降水量とも過去100年間以上の統計が得られる。広島は前述のように豪雨域の谷間に位置していたと思われるので値が小さいが、呉の豪雨は、日降水量、1時間降水量とも既往最大値を上回るものではないが、上位に位置する記録であると言える。広島、呉の既往記録が似通っていることから、これは、呉に限定されるものではなく、広島、呉周辺地域にとっても同様に位置づけられるものと思われる。
地点 | 広島 | 呉 | ||
統計期間 | 1888〜1997 | 1920〜1997 | ||
順位 | 降水量 | 起日 | 降水量 | 起日 |
1 | 79.2 | 1926/09/11 | 74.7 | 1967/07/09 |
2 | 73.0 | 1905/08/07 | 67.1 | 1924/09/12 |
3 | 70.4 | 1950/09/07 | 66.0 | 1991/07/13 |
4 | 66.7 | 1940/09/05 | 66.0 | 1991/07/12 |
5 | 59.5 | 1987/08/13 | 58.5 | 1995/07/03 |
今回 | 15.0 | 1999/06/29 | 70.0 | 1999/06/29 |
地点 | 広島 | 呉 | ||
統計期間 | 1879〜1997 | 1894〜1997 | ||
順位 | 降水量 | 起日 | 降水量 | 起日 |
1 | 339.6 | 1926/09/11 | 221.8 | 1945/09/17 |
2 | 223.0 | 1982/07/16 | 212.9 | 1967/07/09 |
3 | 197.1 | 1945/09/17 | 205.0 | 1972/08/21 |
4 | 187.2 | 1965/06/20 | 173.2 | 1960/07/07 |
5 | 183.5 | 1930/08/13 | 162.5 | 1910/09/06 |
今回 | 97.0 | 1999/06/29 | 185.0 | 1999/06/29 |
制作:牛山素行
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