1999年7月中旬に長野県松本市稲倉で発生した斜面崩壊
1999年7月中旬に長野県松本市稲倉で発生した斜面崩壊
速報第一報(1999/8/19)
牛山素行(京都大学防災研究所COE研究員)
本稿は加筆修正の上、近日中にどこかに投稿します
1.概要
1999年7月中旬、長野県松本市稲倉の道合川上流で斜面崩壊が発生した。新聞報道によれば、発生日時は特定できず、7月22日に地元住民が川の水が濁っていることに気がつき、市に連絡し、調査の結果発見されたものだということである。崩壊の規模は、現地での目測では幅100m以内・長さ200m程度で、崩壊土砂量は数万m3程度かと思われる。崩土は、源頭部より約500m流下して停止しており、家屋や人的な被害は生じなかったが、その約500m下流には集落があることから、現在、応急的な対策として警報装置の設置などが行われている。
本事例は、集落から至近にもかかわらず発生日時が特定されていないこと、人家への被害が生じない段階で警報装置の設置が行われたことなどの特徴があり、今後の土砂災害警戒避難システムの検討を行う上で、継続的な観察を行う価値のある事例と思われる。ここでは速報として、発生したと思われる時期の降雨状況と現地の様子を紹介する。
崩壊地周辺図
2.降雨状況
崩壊現場から最も近い気象庁観測所は松本(測候所)であり、崩壊現場から南方約6キロほどに位置する。崩壊が発生したらしい7月中旬を含む2ヶ月間の松本における日降水量、積算降水量の推移を見ると、松本では梅雨入り後、6月中旬まではほとんど雨が降らず、下旬になっても1日からの積算降水量は平年を下回る状態であったが、27、29、30日にまとまった降雨があり、最終的に6月の月降水量は平年値を93mmほど上回った。7月に入ってからは、3日、11〜15日、18〜19日にそれぞれまとまった降雨があったが、月初めからの積算雨量はほぼ平年並みで推移した。6月から7月の間で最もまとまった雨は6月29〜30日のものであり、30日の日雨量は70mm、29〜30日の一連雨量は126mmであった。松本における1951〜1998年の47年間の日雨量資料を用いて、日雨量・連続2日雨量・連続31日雨量の上位10位の記録をまとめてみた(下表)。これによると、今回の記録は、日降水量については上位10位以内に入らず、2日雨量については10位以内には入る程度の記録である。また、崩壊の発生日と推定されている7月18〜19日の雨量は、20〜30mm程度であり、これらの記録とは比較にならない。ただし、連続31日雨量についてみると、7月18日の記録は、1951年以降最大の記録に匹敵する値となっており、7月12日の降雨後の時点でも上位10位以内に入る程度の値となっている。
崩壊現場付近の雨量については十分な資料が無いが、現場から約5km程度に位置する2,3の観測所の観測値では、松本における状況と大差はない。ただし、崩壊現場付近の女鳥羽側上流域の沢筋から見られる範囲内では、崩壊現場付近東西数km程度の範囲内に限って、小規模な斜面崩壊がいくつか確認されている。このことから、ごく限られた範囲内で、より激しい豪雨が発生した可能性も否定できない。
松本の1999年6〜7月の降水量推移
松本の既往豪雨記録(1951-1998)
3.現地写真 1999/8/9撮影
女鳥羽川沿いの小崩壊
崩壊現場は車道からは近いが見通しが利かず、全景は見にくい。周辺の森林はアカマツが主体。
土砂の停止位置。小さな鋼製堰堤は近日入れたものらしい。
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制作:牛山素行
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