1999年8月19日に三重県員弁郡藤原町西之貝戸川で発生した土石流
速報第一報(1999/8/21)
牛山素行(京都大学防災研究所)
1.概要
1999年8月19日17時頃、三重県員弁郡(イナベグン)藤原町大貝戸(オオガイト)の西之貝戸川上流で土石流が発生した。以下の概要は、中日新聞、伊勢新聞の報道ならびに藤原町役場での聞き取りによるものである。同川では、現在砂防ダムを建設中であり、上流域に2基のワイヤーセンサーが設置されており、この一つが切断され、警報を鳴らしたため、町では、広報有線を用いて住民に避難を呼びかけた。土石流は、源頭部から1000mほど流下したが、そのほとんどは完成間近の砂防ダムならびにその上流で捕捉され(ダムでは4000m3ほど)、砂防ダムを超えた土砂は100m3程度であったと言う。このため、人的被害・人家の被害は生じなかった。
本事例は、警戒避難の成功例であるとともに、砂防施設が有効に機能した例でもあるものと思われる。ここでは、当時の降雨状況の概要を報告するとともに、現場の状況を紹介する。
2.降雨状況
発生現場を含む三重県北勢地方では、1999年7月は比較的降水量の少ない状態が続いていたが、7月29日に80mm以上のまとまった降雨があり、8月15〜16日にも総降水量100mm以上の降雨があった。しかし、AMeDAS阿下喜における7、8月の月降水量準平年値(1979-1990)はそれぞれ329mm、237mmであり、1999年は7月については、降水量は準平年値より100mm以上も少なく、8月については、16日の降雨終了時点で、準平年値を20〜30mmほど上回るペースであった。
AMeDAS阿下喜の1999年7〜8月の降雨状況
8月19日は、日本海に熱帯低気圧があり、これに向かっての暖湿流があり、中部日本付近では各地で一時的に強い雨が記録された。気象衛星画像によると、16時頃から三重県北部付近に輝度の高い雲が認められるようになり、その後17〜18時にかけては東西南北20〜30km程度のスケールの雲がこの付近に存在した。同時刻のレーダーエコーを見ると、三重県をはじめとする中部・近畿の各地に南北方向に伸びる帯状のエコーが認められ、それぞれの最強雨域では、降雨強度64mm以上が表示されていた。
土石流発生現場に近い、AMeDAS阿下喜、員弁北消防署、西之貝戸川砂防ダム工事現場の雨量を見ると、当日は継続的な降雨ではなく、限られた範囲に強い雨が断続的に降るような状況であったことが分かる。西之貝戸川砂防ダム工事現場では、18時に52mm(※)の降雨が記録されており、これが今回の土石流の直接的な引き金となった降雨と思われる。
現場付近の8月19日の降雨状況
※西之貝戸川砂防ダム工事現場の記録は週巻式自記記録紙によるもので、±1時間程度の誤差が生じ得る。土石流発生時刻の証言や、記録紙交換時刻の記録などから、この時の記録も30〜1時間ほどの誤差が生じているものと思われるが、的確な補正方法がないため、グラフでは記録紙からの読みとり値のままとしている
AMeDAS阿下喜の1978-1998の21年間の資料をもとに、1時間降水量、日降水量の記録を見ると次表のようになる。今回の事例は、阿下喜ではほとんど降水が記録されていないので直接比較はできないが、員弁北消防署、西之貝戸川砂防ダム工事現場のデータから見ると、最大1時間降水量は50mm以上、日降水量は60〜70mm程度かと思われる。ただし、土石流発生現場は急斜面となっており、崩壊源頭部付近ではこれより更に大きな降水量となっていた可能性は否定できない。阿下喜における既往の記録と、今回の記録を比較すると、日降水量については問題にならないが、1時間降水量については、最近21年間で見ても上位5位以内に位置づけられる程度の記録であると思われる。
AMeDAS阿下喜の既往豪雨記録(1978-1998)
1時間降水量の大きな値が記録された日の前の降水状況を見ると、多くの事例では直前にほとんど降水がなく、いきなり強雨が記録されているが、今回の事例では、直前2週間に何度かまとまった降水が記録され、その後で大きな1時間降水量が記録されたことが特徴的である。よく似た降雨パターンをとった事例として、1983/7/11があるが、この時は特筆されるような災害は発生していない。どのような状況であったのか、今後確認が必要である。
AMeDAS阿下喜において大きな1時間降水量が記録された日の直前14日間の日降水量(1978-1998)
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制作:牛山素行
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