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- 2000年3月27日岐阜県上宝村における雪崩災害時の気象状況
2000年3月27日岐阜県上宝村における雪崩災害時の気象状況について
本web中の,災害関係ページの記述は,基本的にページ作成時までの情報を元に作成しており,その後の更新はしていません.
1.はじめに
2000年3月27日午前11時50分頃,岐阜県上宝村神坂で大規模な雪崩(毎日新聞記事によれば約60万m3)が発生し,この雪崩に巻き込まれて2名が行方不明となった.ここでは,これまでに入手できた資料をもとに,当日までの気象状況について概観する.
2.利用資料
利用したのは気象庁のAMeDAS観測所資料である.利用観測所は,雪崩発生現場に近い栃尾観測所(上宝村今見,765m)および神岡観測所(神岡町殿,神岡東小学校,455m)である.両観測所とも4要素観測所であり,気温,風,降水量,日照時間の各データが得られる.積雪については,栃尾は9時の積雪深,神岡は毎時の積雪深が得られるが,現時点では神岡の資料のみを利用する.
図1 観測所位置
3.調査結果
3.1 発生直前の状況
雪崩発生10日前からの栃尾の気温・降水量の推移を図2に示す.雪崩発生4日前の3月23日から26日まで,20mm/日程度のまとまった降水が記録されている.積雪資料がないので詳細は不明だが,栃尾では気温から見ると,これらのうち前半の降水は雨として降り,後半25,26日の降水は雪として降ったものと思われる.27日は降水(おそらく雪)が終了し,未明から明け方にかけては冷え込んだものの,日の出後は晴天となり,気温が急速に上昇したようである.
図2 2000/3/18-27の栃尾における気温・降水量
3.2 今冬季の気温の推移
次に,今冬季の気象状況の特徴について検討する.なお,AMeDAS観測所については平年値が算出できないので,ここでは1978〜1997年の観測値の平均を平年値に代わるもの(仮平均)として利用した.以下では便宜的に仮平均値を「平年」と呼ぶこととする.まず栃尾の日平均気温の推移を見ると,図3のようになる.12月は平年をやや上回る状況であったが,徐々に気温は下がる傾向にあった.しかし,12月末にいったん寒さが底を打って上昇傾向に転じ,1月上旬〜中旬は,平年値を下回る日は一日もなく,5℃以上上回る日も頻出した.2月中旬から3月末にかけては,日によって変動はあるものの,おおむね平年値前後の値が記録され続けた.3月下旬に平均気温が大きく下がり,0℃を下回っている日があるが,これが雪崩発生の前日26日である.
図3 今冬季の栃尾における日平均気温の推移(1999/12/1〜2000/3/30)
仮平均」は1978-1997年の平均値
3.2 今冬季の降水量の推移
栃尾の日降水量をもとに今冬季の降水量の推移を示したのが図4である.今冬季の栃尾では,12月下旬,1月下旬に数日間の無降水日があるが,その他の期間はおおむね連日降水が続いている.降水量は特に多くなく,おおむね5mm/日前後である.積算降水量でみても,ほぼ平年値に近い推移を示している.平年値からやや離れるのは,前述の雪崩発生4日前からの降水イベントによる値が加わってからであり,特に23〜24日にかけての降水が,この時期としてはやや多めであったことが分かる.
図4 今冬季の栃尾における降水量の推移(1999/12/1〜2000/3/30)
平均積算」は1978-1997年の日平均降水量の積算値
3.3 今冬季の積雪の推移
前述のように,栃尾の積雪データが得られなかったため,栃尾の西方約20kmの神岡における積雪資料から,今冬季の上宝村付近の積雪状況について検討する.毎日9時の観測値をもとに,積雪深の推移を示したのが図5である.1月上旬〜中旬はまったく積雪がなく,1月21日にようやく最初のまとまった積雪が記録されている.その後は2月下旬までおおむね積雪深が増え続ける.3月に入ってからは,図4に見るように,降水量も少なく,気温も上昇し,融雪が進むが,前述の3月23日からの降水イベントによって再び積雪深が増加している.
図5 今冬季の神岡における積雪深の推移(2000/1/1〜2000/3/27)
積雪量については,一般のAMeDASデータとやや扱いが異なるため,以下では気象庁(1996)に示されている1979〜1995年の平均値を,便宜的に平年値と呼ぶこととする.神岡における月別最深積雪深の平年値と本年の観測値を示したのが図6,階級別積雪日数を示したのが図7である.図5からも想像できるが,本年は1月の最深積雪深,積雪日数ともに極めて少なかったわけだが,2月,3月はいずれも平年を上回っており,特に3月については最深積雪深,積雪日数ともに大きく上回り,多雪傾向であったと言えそうである.
図6 神岡における月別最深積雪深
平均」は1979〜1995年の平均,「本年」は2000年
図7 神岡における月別階級別積雪日数
4.まとめ
以上のデータから,今冬季の上宝村付近の気象状況の特徴を挙げると以下のようになる.なお,雪崩発生現場は山間部であり,谷間の栃尾や神岡観測所とは状況が異なると思われるが,平年に対する特徴などはかなり共通しているのではないかと思われる.
雪崩発生4日前の3月23〜26日には栃尾で最大36mm(24日)のまとまった降水が記録された.このうち25日以降は栃尾,神岡とも雪として降ったものと思われる.
気温は3月に入って上昇傾向が続いていたが,この降水イベントと同時に日平均気温にして6.5℃も低下した.この低温状態から一転して気温が再び上昇した27日に雪崩が発生した.
今冬季の気温は1月下旬までは平年より高い傾向にあり,特に1月上・中旬は顕著であった.しかし,2月以降はおおむね平年並みで推移した.
積算降水量は今冬季を通じてほぼ平年並みであったが,雪崩発生直前の降水イベントにより平年を上回った.
積雪は1月中旬まではほとんど記録されなかったが,2,3月は平年より多めで推移した.前項で述べたように1月中旬まで降水がなかったわけではなく,従って,1月中旬までの降水はおおむね雨として降ったと言っていい.
原文2000/3/31作成
静岡大学防災総合センター 教授 牛山 素行
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