「鉄砲水」について 2000/8/19作成,8/21修正
今回の事例に関しては,報道,建設省のコメントなど多くの場面で「鉄砲水」と呼ばれている.しかし,「鉄砲水」の語の定義はややあいまいであるようにも思われる.手元にあった,自然災害科学事典(築地書館),気象学・気候学辞典(二宮書店),新版気象の事典(東京堂出版),土木用語大辞典(技報堂出版),森林の百科事典(丸善)を参照したところ,「鉄砲水」の見出し語があったのは,気象学・気候学辞典,気象の事典のみであった.それらによると,
- 気象学・気候学辞典
flash flood 地形の急峻な山間部で大雨が降ったときに渓流が急激に増水して奔流となって流れ下ることをいう.流域の地形が平均して急峻で非浸透性の岩盤が露出しているような場合に起こりやすい.《中略》全体にか河川勾配が急なため多量の土砂を運び,破壊力もあるので,沿岸の人家を倒壊させたりすることがある.
- 気象の事典
flash flood 河川の急激な増水.一般には渓流の,とくに土石流についていうが,報道用語では都市河川の急激な増水についていうこともある.昔,山中で材木を運び出すのに,渓流をせきとめて材木を浮かべ,時期を見てその堰を切って下流に押し出した.これを鉄砲堰,鉄砲出しといったのが語源である.
森林の百科事典では,土石流の見出し語中に鉄砲水の語があり,土石流のうち「砂を多く含むと土砂流,水が多いと鉄砲水と呼ばれることもある.」としている.気象の事典他では,土石流の別名として,山津波などとともに鉄砲水を挙げている.気象の事典でも触れているように,報道などでは,都市部の河川の急激な増水も鉄砲水ということがある.
今回の事例は,土砂がほとんど含まれていなかったようであり,狭義の鉄砲水とも言えるものであったかもしれない.しかし,鉄砲水の語は,やや広い意味で使われているように思われ,なんとなく分かったような気になる分,適当な言葉ではないのではなかろうか.現象そのままの,「急激な増水」「急激な出水」などの方がいいように思うが,どうであろうか.
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東北大学大学院工学研究科災害制御研究センター 講師 牛山 素行
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