水俣市付近の降水量観測所とそのデータ公開に関するコメント

 今回の豪雨では,被害の大きかった水俣市宝川内・集地区の降水量が水俣市街地より大きかったものと予想されている.その根拠の一つが,集地区に近い,熊本県深川雨量観測所における観測値である.また,この観測所の観測値が,「通報基準1時間20mmを越えていた」にもかかわらず,この情報が熊本県から水俣市に伝わっていなかったらしいことが報じられている(7月23日西日本新聞社説など).また,水俣市(役所?)に設置されていた熊本県の雨量観測所のデータを受信する情報端末が,約1年前から故障したままになっていたと言うことも伝えられている(7月23日共同通信).
 この情報を単純に聞くと,深川観測所の観測値が,専用端末などでしか受信をすることができず,県からの連絡がなければ市役所などで知ることができない状態であったかのような印象を持たれる可能性がある.しかし,実際はそんなことはない.深川観測所の観測値は,熊本県庁ホームページ内の,「熊本県雨量・気象情報サービス」のページでリアルタイム公開されており,分布図としても,生の数値としても,インターネットに接続さえできれば,誰でも見ることができる.

熊本県雨量・気象情報サービス
http://www.pref.kumamoto.jp/existence/kishou/tenkou.htm

 水俣市付近にある主な観測所の位置を下図に示す.白三角が気象庁,黄三角が国土交通省,赤三角が熊本県観測所である.この図は,国土地理院の数値地図50mメッシュをカシミール3Dで作図したものである.観測所位置は,気象庁および国土交通省については公開されている緯度経度をもちいた.熊本県については,「熊本県雨量・気象情報サービス」の地図から筆者が読み取ったもので,かなり誤差が含まれる.



 ここに掲載されている観測所のデータは,すべてインターネットでリアルタイム公開されている.従って,豪雨当日も,インターネットを参照していれば,これらのデータはリアルタイムに知ることができたはずである.
 しかし,現実には,これらのデータが,警戒避難を判断する材料としては活用されなかった可能性が,現状では高い.考えられることとしては,

 など,いろいろな可能性が考えられる.インターネットでデータを公開しても,その活用方法を地道に普及しなければ,役には立たないと筆者は常々考えている.2002年に筆者が行った調査結果でも,市町村の防災担当者の1割が,インターネットで気象庁や国土交通省の雨量・水位データがリアルタイム公開されていることを知らない,と答えている(牛山ら,2003)[PDF].その意味で,今回の事例は,大変残念な事例になってしまったのではないかと考えている.

 事実関係については,今後検証しなければわからないし,現時点で「犯人捜し」をすることは筆者の本意ではない.しかし,万一「被災地近傍の雨量データが公開されていなかったために,被害が拡大した」という考えがあるとすれば,それは誤解である.問題は,「単に公開されている」にとどまっていたため,で,それが活用されなかったことなのかもしれない.


2003年7月九州豪雨災害 トップへ
静岡大学防災総合センター 教授  牛山 素行
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