はじめに 今回の地震は,比較的まとまった降雨の最中に発生した地震という特徴を持っている.そこで,地震前後の降水量の特徴について,簡単に調べてみた.利用データは,震源域近傍の,気象庁AMeDAS観測所である鹿島台地域気象観測所の値を主に利用した.鹿島台は,AMeDAS整備完了の1979年以降観測所の移動はなく,1979年以降の統計値が利用できる. 鹿島台観測所の位置図を示す.なお本図は,1:200000地勢図「石巻」をもとに,カシミール3Dで作図したものである. | |
平年値との比較(31日降水量) まず,平年値と2003年の記録を対比してみた.比較の方法はいくつかあるが,ここでは,31日間降水量について集計した.毎月末の31日間降水量が,おおむね月降水量に相当することになる.2003年は,冬季の降水量が多めで,特に3月は平年の倍程度が記録された.4月から6月下旬にかけては,平年より少ない状態が続いたが,6月下旬からまとまった降水が何回か記録され,地震発生日の7月26日の31日間降水量は,平年の倍程度の値となった.31日間降水量で見ると,かなり多くの降水が記録されていたことになる. | |
地震前10日間の降水状況 地震当日の31日間降水量が多めであったことは間違いないが,一般的な斜面崩壊などの土砂災害の発生には,より短期の降水量が関係することが多い.そこで,地震前10日間の降水状況を整理してみた. 棒グラフが1時間降水量,CPは7/17から起算した積算降水量,24HPは各時間の24時間降水量,API48は,土砂災害の発生基準雨量の長期雨量指標などとしてよく使われる半減期48時間実効雨量である.7/17から積算すると,もっもと強い揺れが観測された7/26 07:13の地震の際の積算降水量(7時)は164mmとなる.この値を「降り始めからの降水量」とみなしているケースもあるかもしれないが,7月21日19時〜23日20時までの49時間もの降水中断があるので,これを積算することは一般的なこととは思えない.「降り始めからの降水量」としては,23日21時からの114mm位が適当であろう. 7月21日7時の24時間降水量は27mm,半減期48時間実効雨量80mmである.鹿島台の24時間降水量最大値(1979年以降)は268mm,半減期48時間実効雨量最大値は244mmであり,一般的な斜面災害と関係づけられることが多い降水量指標に関しては,特に大きな値ではない. | |
降水分布 最後に,7月26日7時の時点での震源域周辺の降水量分布を整理してみた.利用資料は,気象庁AMeDAS観測所のデータである.24時間降水量は,鹿島台は27mmと非常に少ないが,沿岸部の雄勝では118mmとまとまった降水になっている.また,内陸部にも60mm程度の雨域がある.半減期48時間実効雨量の分布も同様な特徴である.降水量が少ないのは鹿島台だけではなく,,石巻,塩釜なども比較的少なく,鹿島台の観測値に特に異常があるとは思えない. 今回の地震では,同時にかなり強い雨が記録されていたという印象があるが,強い雨域は沿岸部で記録されたものであり,震源域付近ではそれほど多くはなかったように思われる. 降水量と崩壊の関係には,無論地域差があり,かつどの地域ではどの程度の期間の降水量が崩壊と関係するかということを明言することは非常に難しい.ましてや,降水に地震の揺れが加わっての崩壊発生というケースはきわめてまれで,明らかになっている問題ではない.31日降水量など,長期の降水量が多めであったことは確かであり,今後の検討すべき課題である. |
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