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2004年6月30日静岡豪雨災害
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6/29 21:00〜6/30 21:00の24時間降水量分布
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2004年6月30日の静岡市付近における豪雨災害についてのコメント
東北大学災害制御研究センター
講師 牛山 素行
本ページは,本災害に関する研究調査を行われる方の参考になる情報集積を行うことを目的としております.本ページの記述はすべて速報的なものであり,完全なものではありません.間違いがあった場合は修正するなどして,当分の間内容が頻繁に変わる可能性があるのでご承知下さい.また,不適切な表現に気がつかれた場合は,こちらまでお知らせいただければ幸いです.
災害概要
2004年6月30日未明から正午頃にかけて,台風8号および高気圧の縁辺から暖かく湿った空気が流入し,静岡県付近に局地的な前線が形成され,静岡市を中心とした静岡県下で豪雨となった.6月30日16時現在静岡県の被害は,静岡県HPによると死者・行方不明者0名,住家の全壊0棟,半壊0棟,床上浸水54棟,床下浸水287棟であった.また,東海道新幹線が午前7時から午後0時半頃まで運休し,上下54本が運休した.気象庁資料によると,1971年〜2002年に静岡県で床上浸水50棟以上が発生した豪雨災害は26事例ほど記録されており,過去の記録と比較する限りでは,同県の豪雨災害としては比較的大きな被害にならなかったとも言える.
降水状況
2004/6/30の1時間降水量記録更新観測所
番号 | 府県名 | 観測所名 | 東経 | 北緯 |
1時間降水量 (mm) |
記録時 |
グラフ |
過去最大 (mm) |
統計期間 |
なし |
2004/6/30の24時間降水量記録更新観測所
番号 | 府県名 | 観測所名 | 東経 | 北緯 |
24時間降水量 (mm) |
記録時 |
グラフ |
過去最大 (mm) |
統計期間 |
50331 | 静岡 | 静岡 | 138.4033 | 34.9750 |
368.0 |
6/30 24 | Link |
344.0 |
1979-2003 |
2004/6/30 24時間降水量200mm以上の観測所
番号 | 府県名 | 観測所名 | 東経 | 北緯 |
24時間降水量 (mm) |
記録時 |
グラフ |
過去最大 (mm) |
統計期間 |
50261 | 静岡 | 清水 | 138.5217 | 35.0533 |
211.0 |
6/30 24 | Link |
284.0 |
1979-2003 |
50331 | 静岡 | 静岡 | 138.4033 | 34.9750 |
368.0 |
6/30 24 | Link |
344.0 |
1979-2003 |
- 「Link」をクリックすると,48時間分の降水量変化のグラフが開きます.
- 観測所名をクリックすると,観測所の位置の地図(Mapion)にジャンプします.ただし,気象庁から提供されている位置データ(緯度経度)は,0.1分単位であり,地図を詳細にしていくと200m程度のずれが生じていることがあります.WGS84->日本測地系の変換は対処しています.
これらの図表に見るように,今回の豪雨域は静岡市を中心としたかなりせまい範囲に集中した.「山間部ではより多くの降雨があった」といった状況ではない.アメダス静岡では24時間降水量が1979年以降の最大値を更新し,1時間降水量が3位となった.ちなみに,静岡の既往記録(統計期間:1979-2003)は,
1時間降水量[mm] |
111 | 2003/07/04 |
83 | 1991/09/14 |
72 | 1987/08/06 |
24時間降水量[mm] |
344 | 2003/07/04 |
334 | 1982/09/12 |
318 | 2002/07/10 |
となっており,24時間降水量も突出した記録ではない.
防災情報としての観点から
今回の豪雨に関して,「1日に降った雨としては観測開始以来最大」である旨の報道が何件か見られた.静岡新聞の記事を引用すると以下のようになる.
(前略)特に静岡市内など県中部の雨が激しく、同市で午前八時から九時までの一時間に八一・五ミリの猛烈な集中豪雨を観測した。総雨量も静岡市の一日の降水量としては観測史上最高の三六八ミリを記録した。(後略)
http://www.shizuokaonline.com/local_social/20040630000000000049.htmより
この表現は誤りではない.静岡地方気象台の日降水量の既往1位は,1940年以降の統計で318.0mm(2002/7/10),2位297.5mm(1982/9/12)などとなっており,2004/6/30の記録は確かにこれを上回る.しかし,日降水量というのは,24時から24時までの24時間の降水量であり,24時をまたがって発生したような豪雨の場合,実態より小さい値となることになる.先に示した「1979年以降の24時間降水量最大値」は344mmで,これがすでに「日降水量の過去最大値」を上回っているが,これは24時を日界とした「日降水量」ではなく,任意の24時間で計算した最大値だからである.
静岡の豪雨でまず思い浮かぶのは,いわゆる「七夕豪雨」(1974/7/7-7/8.死者不明者44,全壊182棟,半壊470棟,床上浸水25400棟,床下浸水48300棟,山崖崩れ2880ヶ所など.気象庁資料による)である.「観測史上最大」という話だけを聞くと,今回の豪雨は「七夕豪雨」を上回るくらいの豪雨であったかとも思える.しかし「七夕豪雨」時の24時間降水量は508mm(1974/7/7 09時〜7/8 09時で,今回の記録を140mmも上回っている.「七夕豪雨」は深夜から未明にかけて発生したため,日降水量の記録としては小さくなってしまっているのである.また,豪雨の発生範囲も今回よりかなり大きい.
防災気象情報の伝え方には難しい面が多々ある.「観測史上最大」という強い表現で,警戒心を持ってもらうことは,イベントの進行中には必要なことと思われる.しかし,そのままだと,「観測史上最大」という話を聞いた人が,以下のような理解をすることも懸念されないだろうか.
- 「観測史上最大」ということは「七夕豪雨」よりたくさん雨が降ったのだろう.
- その「観測史上最大」の雨でもこの程度の被害なのだから,もう豪雨はそれほど怖くないのだ.
少なくとも,「観測史上最大の日降水量」よりかなり大きい「24時間降水量」がこの地域では記録されている,ということが,この機会に記憶にとどめられるとよいのだが・・・
関連リンク
- 国機関などの災害情報・資料(リンク切れとなる可能性があります)
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- 本ページで使用しているAMeDASデータの図表は,日本気象協会との協力により当方で整備しているリアルタイム豪雨表示システムによるものです.
静岡大学防災総合センター 教授 牛山 素行
E-mail:->Here