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災害研究- 災害事例の調査・研究情報- 2004年8月17〜18日香川・愛媛豪雨災害

2004年8月17〜18日香川・愛媛豪雨災害に関するメモ

東北大学災害制御研究センター  講師 牛山 素行

2004/8/20作成開始

本ページは,本災害に関して筆者が関心を持ったごく限定的な事項についてのみの覚え書きです.本ページの記述はすべて速報的なものであり,完全なものではありません.また,情報追加はほとんどなされないものと思います.不適切な表現に気がつかれた場合は,こちらまでお知らせいただければ幸いです.


災害概要

 2004年8月17日から18日にかけて,台風0415号からの暖湿流によって活発化した停滞前線の活動により,四国中央部付近を中心とした豪雨が発生した.8月26日10:00現在,全国の被害は総務省消防庁によると死者・行方不明者10名,住家の全壊5棟,半壊5棟,一部損壊139棟,床上浸水694棟,床下浸水2303棟となっている.被害の中心は香川県(死者5,半壊4,一部破損2,床上12,床下655),愛媛県(同4,3,0,6,643,1068)の県境付近であり,愛媛県新居浜市では床上浸水632棟,床下浸水994棟(8月26日愛媛県資料による)が記録された.
 愛媛,香川両県とも,1970年代前半に比較的大きな豪雨災害を記録しているが,その後は大きな豪雨災害の経験がなく,愛媛の床上浸水家屋数は,1975年8月の豪雨災害(床上681棟)以来の大きさであり,香川の死者数も,1976年9月の災害(50名)以来の多さであった.

現地調査資料

降水状況

本災害の特徴・特記事項

牛山が関心を持った事項のメモです.
大野原町五郷有木地区の避災現場 現地付近略図
避難先での遭難・報道からの印象
香川県大野原町五郷有木地区では,「鉄砲水」に流されて72歳女性と45歳女性の2名が亡くなった.四国新聞記事によると,この2名は自宅裏山の崩壊を警戒して,17日17時頃,同地区の落合自治会館に自主避難していたが,同18時頃,同会館横を流れる前田川が氾濫し,濁流に流されたとのことである.当時同会館には他に2名が避難していたが,救出され無事だった.同会館は指定避難場所ではなかったが,このような自主避難は全国各地でよく行われることである.きわめて痛ましい話である.

現地の概況
筆者は,集会場(自治会館)に避難していた2名が犠牲となった,香川県大野原町五郷有木(落合)地区の現場を,2004年8月27日に現地調査し,ヒアリングなどを行った.同自治会館は,落合集落内を流れる前田川の左岸に面した幅50m程度のごく狭い谷底平野の最低部に建てられていた.この地区付近の前田川は堀割状で,水面までの高さ2m程度の護岸はあったが堤防はなく,同会館はこの護岸のすぐ脇にあった.同会館の,前田川を挟んだ対岸(右岸,北東方向)のほぼ正面には,流域面積15ha(0.15km2)ほど(1:25000地形図からの計測)の渓流(落合川,土石流危険渓流)の出口が存在した.落合集落付近には少なくとも4つの渓流が地形図から読み取れるが,落合川はその中でもっとも大きな流域面積の渓流であった.この渓流には明瞭な土石流の流下痕があり,この土石流が同会館を直撃するとともに,前田川を一時的に河道閉塞し,同会館内に土砂や流水を運び込んだのではないかと想像された.また,直下に橋があったことも河道閉塞を助長した可能性はある.付近の民家の浸水痕跡から簡易測量したところ,この付近の浸水深は,現河床から最大で約+5m程度あったものと思われた.このあたりのメカニズムについては,今後種々の検討がなされると思われるので,ここでは深く検討するつもりはない.
一次避難場所としての公民館
同会館は指定避難場所ではなかったが,災害時の避難先として最優先に考えられる場所であったことは想像に難くない.しかし,避難場所として,同会館が比較的安全な場所であったかどうかをかんがえると,非常に残念ではあるが,そうとは言いかねるものと思われた.理由は,
  1. 谷底平野の最低部であり,河川からの氾濫や浸食の被害をもっとも受けやすい位置であること
  2. 川の真横であり,かつ河床からの比高はせいぜい2,3mしかないこと
  3. 比較的大きな面積の渓流の谷出口の正面であること
などである.(1),(2)は,すぐ上流にダムが建設されたことによる安心感から,軽視されやすいかもしれないが,(3)はダムの完成とは無関係に存在した潜在的危険性であろう.複数の住民の話によると,この集落で,最近豪雨災害によって避難がおこなわれたような事例はなく,同会館が避難先として実際に使われたということも今回が初めてではないかという.未経験の出来事に遭遇し,まずは公民館へ避難を,と考えたことは無理もないことであって,そう思えば思うほど,痛ましい気持ちでいっぱいである.これはなにもこの地区や,今回遭難した人々に特有なことではなく,全国ほとんどの地域で,緊急時のさしあたっての避難場所としてまず考えられるのは,地域の集会所,公民館であろう.そして,ほとんどの場合,このような公民館の避難場所としての適切性は検討されていない.いわゆる住民参加型で作成した地域型防災マップで,あまり専門的知見を加えずに作成した場合,このような検討が十分でないままに公民館等が一次避難場所として考えられてしまう懸念がもたれる.地域型防災マップ作成にあたり注意すべき事柄であろう.公民館の一時避難場所としての適切性が検討されたとしても,代替地がないということも十分考えられる.今回の現場でも,では代替地は,と問われれば,筆者には回答に窮すると思われた.しかし,少しでも状況を改善する方法はあるはずである.今後,各方面の知恵を集めたい.

関連リンク

※本災害に関しての完全なリンクを作成することを目指しているものではなく,筆者の必要に応じて作成しているものです.

静岡大学防災総合センター 教授  牛山 素行
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