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災害研究- 災害事例の調査・研究情報- 2004年10月台風0423号豪雨災害- 台風0423号災害の犠牲者死因

台風0423号災害の犠牲者死因について

図1 原因別人的被害の割合(全84名)
図2 年代別人的被害の割合(全84名)
図3 土砂,洪水による人的被害の年代別割合
本豪雨による死者・不明者の発生原因を,10月22日10時の消防庁資料,各県発表の資料,各県の新聞報道をもとに分類してみた.分類は以下のような類別,方針で行っている. すると,今回の災害による死者不明者84名の原因は となっている.近年の豪雨災害で人的被害が多い場合,
  1. 大規模な土砂災害が発生した
  2. 船舶災害(船の転覆,座礁など)による犠牲者が発生している
のいずれかであることが多い.しかし,今回は最も多数の被害を生じた土砂災害現場でも犠牲者は5名で,1.には当てはまらない.また,船舶災害の死者不明者は一人も生じておらず,2.とも異なる.土砂災害によるものが最も多いが,近年の多くの豪雨災害時のように土砂災害による犠牲者が半数以上という状況にはならないと思われ,特定の被害因に集中しなかったことが特徴と言えそうである.洪水によるものはこの時点で23名だが,詳細不明の中に洪水による可能性が高いものもある.土砂災害によるものはおそらくこれ以上増えないので,最終的には洪水によるものが最も多くなる可能性がある.

2004年7月新潟豪雨では,洪水による溺死者が12名生じたことが,筆者を始め水災害に関わる者に衝撃を与えたが,これを上回る犠牲者が生たと言ってよいと思われる.これだけ多数の洪水による人的被害が生じたのは,1982年長崎豪雨災害以来と考えてよい.

年代別に見ると,61歳以上の高齢者が6割程度となり,高齢者の被害が今回も多かったことは確かである.ただし,遭難の形態をよく見ていくと,注意すべき点が出てくる.図3は,洪水と土砂による犠牲者を年代別に分類した図である.土砂災害に関しては,高齢者が犠牲者の8割を占め,高齢者が自宅で土砂災害に巻き込まれて遭難したという形態が見て取れる.一方,洪水に関しては,60歳以下の青壮年の犠牲者が4割程度を占めている.しかも,この10人は全員が家にいて流されたのではなく,移動中(しかも多くの場合帰宅中)に流されている.61歳以上の高齢者でも,家の居て浸水によって死亡したのは5名であり,移動中に流されたケースの方が多い.洪水による犠牲者の場合は,「高齢者が逃げ遅れて遭難した」という形態は,必ずしも当てはまらないように思われた.

近年の豪雨災害の傾向からは,洪水による死者は生じにくく,ことに青壮年が,日中の活動時間帯に洪水で死亡するケースはごくまれであると考えられてきた.しかし,今回の災害ではこの考えが必ずしも正しくなかったことが示されたものと思われる.
静岡大学防災総合センター 教授  牛山 素行
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