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災害研究- 災害事例の調査・研究情報- 2006年8月18日岩手県雫石町土石流

2006年8月18日岩手県雫石町土石流に関するメモ

静岡大学防災総合センター 教授  牛山 素行

2006/08/19作成開始
2007/07/18地図表示の更新

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災害概要・現地踏査メモ

 2006年8月18日,活発化した停滞前線の影響で,北東北,北海道の各地で豪雨が発生した.岩手県では,岩手山付近で局所的な豪雨が発生し,岩手郡雫石町の網張(国土交通省観測所)で,最大1時間降水量58mm,最大24時間降水量163mmなどが観測された.同観測所の過去の記録が不詳なので直接の比較ができないが,この付近に2004年まで存在した気象庁岩手山観測所の1979~2003年の最大1時間降水量は37mm,同24時間降水量199mm,また,岩手山山麓の気象庁葛根田観測所では同じデータで59mm,191mmなどとなっており,この地域としてはやや大きい降水量が記録されたことになる.

 この豪雨により,岩手山の中腹,標高610m付近にある,雫石町長山の県道網張温泉線沿いにある御神坂駐車場に,8月18日16時10分頃土石流が到達し,駐車場に停まっていた車が流され,乗っていた3人のうち一人が軽傷を負った(8月19日岩手日報記事などによる).  土石流到達現場を,8月19日15時頃現地踏査した.土石流が流出した駐車場は,県道から一段高いところに整地されており,土石流の流出によりよく分からないが,その更に山側にもう一段の駐車場があったように思われた.

 土石流が流下した渓流は,谷出口付近で幅約10m,傾斜約6度であった.谷出口付近から,土砂が堆積している駐車場の末端まで約110m,駐車場の幅が約100mであったので,土砂堆積域を三角形に近似し,堆積深を平均1mと仮定し,駐車場付近に堆積している土砂量を大まかに推定すると5000~6000m^3程度であろうか.土砂は主に二段の駐車場付近に堆積しているが,谷出口正面方向では,道路側にも土石流の流出が見られた.ただし,道路の山麓側にはほとんど礫や土砂の流出は見られなかった(泥が中心).

 防災情報の観点から考えると,このような現場における被害の軽減は,現状では非常に難しいと言わざるを得ない.岩手デジタルマップで確認したところ,現場の渓流(御神坂沢)は土石流危険渓流とはなっていない.付近に住家がないこともあり,この渓流が土石流危険渓流になっていないことは無理もないことである.そもそも,特定の渓流に限定しての危険情報というものは実用的なレベルには達していない.また,車で移動中の人に対する,リアルタイム防災情報の確実な伝達は,現在の各種技術ではたいへん難しい.

 移動中の被災は,2004年10月台風23号豪雨災害時に多く見られた.移動中の対象に対して,リアルタイムでなくても良いので,ハザードマップ的な「この付近は何それの災害の危険がある」といった情報を,なんとか伝達を図ることができないか,更に工夫が必要だと思われる.

AMeDASデータによる8月18日24時の24時間降水量分布図


国交省網張観測所の8月17~18日の降水量推移



静岡大学防災総合センター 教授  牛山 素行
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