disaster-i.net- 作者紹介- 災害研究- イベント等- リアルタイム豪雨
災害研究- 災害事例の調査・研究情報- 平成20年岩手・宮城内陸地震に関するメモ

平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震に関するメモ

静岡大学防災総合センター 教授  牛山 素行

2008/6/14作成開始
  • 本ページの記述は,すべてページ作成時の速報的なものであり,完全なものではありません.本web中の記述は,基本的にページ作成時までの情報を元に作成しており,その後の更新はしていません.
  • 現地調査の様子など最新の活動状況は,ブログにも掲載しております.また,メールマガジンにご登録いただくと,更新状況をメールでお知らせいたします.
  • 筆者は地震の専門家ではありません.本ページには地震のメカニズムに関する情報は掲載されません.筆者の専門領域である,災害情報や,災害時の人的被害に関する情報を記録するページです.

災害概要

2008年6月14日8時43分頃,岩手県内陸南部を震源としたM7.2の地震が発生した.この地震により,岩手県奥州市と宮城県栗原市で震度6強を記録したのを始め,岩手県,宮城県,秋田県付近の各地で強い揺れが観測された.総務省消防庁の6/15 18:30現在の資料によれば,死者9名,行方不明者13名,住家の全壊2,半壊4棟などとなっている.市街地での多数の家屋倒壊などは発生しておらず,山間部での土砂崩壊に伴う被害が中心となっている.人的被害も,山間部での観光客,工事関係者などが多い.

オリジナル資料

論文・予稿集・報告書

現地調査写真

特記事項・雑感

人的被害についての追記(08/06/20)

 今回の地震による人的被害は「住民でない人」が中心である.そのことは今回の災害の「特徴」として指摘できるとして,では,その対応策はないのか,ということをよく聞かれる.
 地震そのものの直前予知がきわめて困難であることを考慮すると,基本的には「外で行動している,住民でない人」が犠牲になる形態を軽減することも困難であると言わざるを得ない.しかし,あえて指摘するとすれば,「危険箇所の告知」という方策が考えられる.洪水災害の場合は,国土交通省による「まるごとまちごとハザードマップ」という取り組みがあり,浸水想定区域内の道路に,その旨の看板をつけるといった対策が(地域は限定されるが)とられ始めている.岩手県などの三陸沿岸の国道では,津波の浸水想定区域を同様に看板で掲示している取り組みもある.

市街地に浸水深等を表示します ~まるごとまちごとハザードマップの推進~
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/05/050703_.html
津波浸水想定区域の案内標識を設置します
http://www.thr.mlit.go.jp/bumon/kisya/kisyah/13180_kisya_preview.html

 今回の人的被害の多くは土砂災害である.土砂災害については,主に居住地域においては,「土砂災害特別警戒区域」や,「土石流危険渓流」,「急傾斜地崩壊危険箇所」といった指定カ所の制度がある.すでにこのような形で指定されているカ所については,従来以上にその旨の掲示をするという方策もある.今回の被災現場となった,夏季のみ営業する宿泊施設,観光名所などは,この種の指定制度の対象外となっていることも多いので,今すぐに何かできるということではない.しかし,地形情報その他から個々の地域においてこのような種類の災害が起こりうるといった情報,すなわち災害素因の情報はある程度把握できる可能性がある.観光地ではこのような情報はネガティブに受け止められる場合もあるが,火山防災分野でよく言われるように,「脅しの防災教育」ではなく,自然そのものに興味関心を持ってもらうことに主眼をおいた情報提供という考え方も可能ではなかろうか.

自然災害と恵みは不可分  小山真人(静岡大学教育学部教授)
http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/etc/opinion/jihyo1.html

 豪雨,土砂災害分野においても,こういった情報を,単なる「危険情報」として示すだけでなく,「学びの情報」として提示するなどといった方向は,効果は限定的であろうが,一つの可能性ではなかろうか.

人的被害について

総務省消防庁の第21報(6/15 18:30発表)によると,今回の人的被害は,死者9名,行方不明者13名となっています.自宅で被災して死亡または行方不明となったと見なせるのは栗原市の駒の湯関係者のみで,ほとんどが外出中,旅行中に遭難したものと考えられる.「住民ではない人」が遭難しているケースが案外多く,「住民ではない人」は,年齢などにかかわらず「災害時要援護者」的な性格を持っていることは,豪雨災害に関する筆者の研究でもたびたび指摘している.ハード防災対策は,「住民」も「住民でない人」も隔てなく効果を発揮するが,災害情報などのソフト防災対策は,主に「住民」が念頭に置かれており,「住民でない人」への対応は難しいものがある.
今回の事例と共通する,
・山間部での地震災害とそれに伴う土砂災害
・山間部の観光客や作業中の人などが多く遭難した
という特徴を持つ事例としては,1984年の長野県西部地震が挙げられる.この地震では,長野県王滝村で御嶽山が山体崩壊と言っていいほどの大規模な崩壊(崩壊土量約3600万m^3)を起こしたのをはじめ,各所で斜面崩壊を生じた.死者不明者は29名で,その内訳は温泉旅館の流失(消滅というべき状況)により4名が不明,移動中やキノコ狩りなどの最中に行方不明となった人が11名,川沿いの生コン工場従業員など作業中に不明となった人が13名などで,ほとんどの犠牲者が「住民でない人」だった.
地震災害の場合,豪雨災害以上に「住民でない人」への対応は困難なものがある.しかし,「教訓」として考えていかなければいけない課題であることも確かであろう.

参考文献
全国防災協会編:わが国の災害誌 第4編,2004.

6/14当日の現地踏査や報道から考えたこと

  • 震度6強が記録された地震での緊急地震速報は初めてのはず.マスメディアでは相変わらず「間に合った,間に合わない」との論評ばかりだが,実際どのように活用されたのかに関心が持たれる.
  • 奥州市,一関市等の市街地をはじめ,人の居住地域での被害は比較的大きくなく,山間部で仕事をしていた人や観光客など,「住民でない人」が遭難したケースが目立つ.人的被害の生じ方としては,やや特異な事例といえるかもしれない.
  • 道路の亀裂,橋台前後の段差などは無数に見られる.

    (6/15付記)以下は奥州市,一関市の車で入れる部分を現地踏査した段階での印象
  • 斜面崩壊はそれなりにあるが,至る所で崩壊しているわけではない.豪雨のあとにほとんどの沢から土砂が出ているような様子とは違う.
  • 拡大崩壊が目立つように思える.ただこれは新規の小規模崩壊は樹木に隠れて見えにくいといったことが関係するかもしれない.

個人的メモとしてのリンク


  • 当ページはごく普通のホームページですので、特になにか必要がない限り、作成者としてはリンク掲載許可の申請は不要です。
  • 本ページ記載の図表は,出典を明記(URLなど)していただければ,印刷物等に引用していただいてかまいません.ただし,速報的なものですので,データには誤りが含まれている可能性があることをご承知ください.
  • 本ページで使用しているAMeDASデータの図表は,日本気象協会との協力により当方で整備しているリアルタイム豪雨表示システムによるものです.

静岡大学防災総合センター 教授  牛山 素行
E-mail:->Here