1999年6月6日 晴時々曇り 佐保路

●法華寺
 JR奈良駅からバスに乗り、法華寺の鍵の手で下車する。佐保路は、近鉄で奈良に出入りすれば自動的に横断する地であるが、下車して歩いたのはおそらく1984年の訪問時だけであろう。あと、1988年に平城宮跡の調査(レポート用)の為に来ているが、この時は覆屋あたりより西側だけを訪ねているはずである。
 バス停から、看板の指示に従って数分歩くと、見覚えのあるこじんまりとした、それでいて風格のある門と小伽藍が目に入ってきた。時刻は12:30頃。今日はここ界隈以外には確たる訪問目的地はないので、気持ちはのんびりしている。まずは門前の掲示でも・・・、む、十一面観音開帳中ですか。事前に一応は調べてきたつもりだったが、6月の開帳は知らなかった。しかも5日間だけとは、なんとも幸運。心ときめきながら境内に足を踏みいれる。
 境内は、こんなに小さかったかな、という印象。心急くが、少し境内をうろうろしてから堂内に入る。境内だけなら無料なのですな。堂内は畳敷でじっくり座って拝観できる。堂内中央に見た目新旧2つのずしがあり、左側が開いている。国宝十一面観音。光明皇后をモデルとした仏像としてあまりに有名なものである。以前見たのは右側のずしに安置されている像であり、これはかなり小さなものであった印象がある。今日拝観している本物のほうは、うむ、ずしいっぱいの大きさであるが、意外に小さいかな。しかし、受ける印象はかなり好ましいもの。と言って、余りに有名な像だけに、どう表現してもどこかで読んだのになってしまうでしょうな・・・

●海竜王寺
 ここも訪問は2度目。ともかく静かな寺という印象がある。今回もその印象はたがわず。適度に荒れた感じが、かつての大和路の寺の雰囲気をよく残しているのかもしれない。ここの最大のみものは堂内に置かれている五重小塔。天平期のものというが、よくこのような保管が厄介そうなものが残ったものである。

●平城宮跡
 近鉄奈良線南側に復元された朱雀門をはじめ、平城宮跡の整備が徐々に進行中である。1988年の訪問時にはまさにその状況をレポートしたわけだが、その当時と比べても大きな変化だ。今日は休日ということもあって、付近はまるで代々木公園のような雰囲気である。このあたりが、平城宮跡が奈良とはいえ、他の寺社とはイメージが異なるゆえんなのでしょうな・・・
 今回は、整備が行われた東院庭園というところを見る。公的な整備庭園のためか、展示館も併設にもかかわらず無料。非常にきれいなのだが、どうも好感がもてない。おそらくこれは、ここがあくまでも「主なき施設の復元」であるため、結局のところ「1/1の模型」の域を超えられないためであろう。
 薬師寺をはじめ、おおがかりな復元を行っている寺院は多い。しかし、それらはいずれも「主ある」施設であり、いわば息が通っている。平城宮跡は、息が通っていないゆえ、私の感性に合わないのであろう。

●興福寺
 締めくくりは、奈良市街に戻り、興福寺境内を散策。三重塔は初めてかもしれない。先日も話したが、広大ながら、本当に「境内」の概念のない寺である。これだけの大寺院が、明治維新時にはあっけなく消失した。私が古寺巡礼を好んでも、信仰に興味を持たないのは、結局こういったところに、寺社のごくふつうの「組織」としての姿を感じてしまうからかもしれない。


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