近年新たな情報媒体として発展を続けているものにいわゆるパソコン通信がある。パソコン通信は、パソコン・ワープロを電話回線を通じてホストコンピューターに接続し、情報のやりとりを行う情報媒体である。同種のものとして、大学・研究機関等を接続したインターネット(アスキー編集部、1994)も最近話題となっているが、現時点ではパソコン通信は所属する機関に関係なく、広く一般の人が加入できる点に特徴がある。パソコン通信には、個人などが運営する小規模ないわゆる「草の根ネット」と、専門の企業によって運営される全国規模の「大手商用ネット」とがある。現在その利用者は大手商用ネットのみでも100万人規模となり、さらに増加中である(ニフティ株式会社、1994)。
パソコン通信は、パソコン・ワープロと自宅の電話回線をモデムと呼ばれる機器を介してつなぎ、参加しようとするネットのホストコンピューターが接続されている電話回線(アクセスポイントと呼ばれる)へ通信用ソフトウェアによって機械的に電話をかけることによって接続・利用ができる。従って、パソコン通信を行う際には、ホストコンピューターと接続していた時間に応じた電話料金がかかることになる。自宅からアクセスポイントまでの距離が遠いとその分電話料金も高くなるが、大手商用ネットでは全国各地にアクセスポイントを設置しており、料金面での地域による格差は少ない。また、商用ネットでは電話料金とは別に接続時間に応じて接続料が必要になる(Nifty-Serveの場合通常は10円/分)。
パソコン通信が、新聞・テレビ等の従来の情報媒体と異なる特徴としては
(1)加入した誰もが情報の受信・発信を行える
(2)各人が都合の良い時間に必要な情報を取捨選択して入手することができる
(3)入手した情報の加工・分析が容易である
(4)短時間のうちに不特定多数との情報交換が可能である
などが挙げられる。ことに(1)、(4)のいわば「不特定多数による双方向の情報利用」は、従来の情報媒体とまったく異なる特徴として注目される。
すでに、パソコン通信を情報収集手段として研究に活用する試みはいくつかなされている。災害科学分野では、パソコン通信で提供される通信社等のニュースを利用し、災害時の情報伝達の特徴を解析した研究(尾池他、1991)などがあるが、パソコン通信の情報の双方向性に着目した研究はまだ少ない。
筆者は従来から災害時の情報交換手段としてのパソコン通信に着目し、最大手商用ネットの一方であるNIFTY-Serveを利用していたところ、1993年9月、台風9313号接近時に同ネット上で台風関連の情報交換を行う臨時の電子掲示板(後述)が開設された。本論文ではこの電子掲示板に寄せられた情報を分析した上で、災害時のパソコン通信の利用可能性についての提言を行いたい。