3. 結果 目次へ

3.1 台風9313号の概要 目次へ

 台風9313号は9月2日ごろから日本列島に接近し、3日午後九州に上陸、4日午後に日本海で温帯低気圧に変わった(図3)。上陸時の中心気圧は930hPaと1951年以降では3番目に低い値を示した強い台風であり、鹿児島県を中心に死者・行方不明者46人などの多大な被害をもたらした。この台風による降水量は鹿児島、宮崎、大分県付近で100mmを越し、気象官署中の最大は大分で422mmであった。降水は西日本では3日正午前頃から強くなり、4日明け方までには降り止んでいる(図4)。

3.2 時間帯ごとの発言数・参照数 目次へ

 今回の臨時電子掲示板は9月2日に開設され、4日までの3日間発言が登録され、5日以降は発言の登録はなされなかった。掲示板は「東日本」「西日本」の2本が開設され、最終的に合わせて205発言が登録された。台風通過後の9月5日9時時点の参照数をもとにした全発言の平均参照数は390回であり、のべ参照数(各発言の参照数の総和)は80044回であった。

 日別の発言数を表1に、各発言毎の参照数を図5に示す。電子掲示板での発言ヘッダには時間に関する情報としては登録日が示されるのみであるので、各発言の登録された正確な時間は知ることができない。しかし、発言内容やタイトルから発言の登録された時刻を類推することができる発言がいくつかあったため、それらを参考にして発言登録時刻の目安を図中に示した。

 発言の約6割は3日に登録されており(表1)、特に午後に集中している。参照数は、2日に登録された発言と、3日昼間(06〜18時頃)に登録された発言で特に多くなっている。参照された時間を推定する手段はないが、電子掲示板の場合はアクセス時に近い時間に登録された発言を主に参照することが多く、古い発言を数十発言程度さかのぼって参照することはあまり考えられないため、参照数の増減は概ねそれぞれの時間帯のアクセス者数の傾向を示しているものと考えられる。

 通常、パソコン通信のアクセスは22時〜翌日02時の深夜帯に集中し、他の時間帯はほぼ同程度になっている(ニフティ株式会社、1994)。従って、この台風臨時掲示板の発言・参照傾向は特徴的である。台風の九州上陸が3日16時頃であり、西日本の降水量も3日正午前頃から増えており、雨が強まるのに伴って外出、帰宅時の情報を求めたアクセス者が増えたことを示しているのではないかと考えられる。

 また、全体として参照数は登録時間が若くなるに従って少なくなっている傾向があるように見られるが、これは古い発言ほど参照されるチャンスが増えるためではないかと思われる。

3.3 発言者数と地域分布 目次へ

 発言者IDを元に、発言者数を調べたところ、111人となった。そのうち複数発言の登録者は33人であり、最多発言者は17発言を登録していた。

 各発言の発信地は、205発言中159発言の本文中に明示されていた。これを都道府県別に整理したものを図6に示す。発言はほぼ全国から発信されており、ことに台風の通過した西日本で多くなっている。NIFTY-Serveの会員は5割以上が関東地方に集中しており、今回発言が多く見られた中国・四国・九州地方の会員は全体の1割にも満たない(ニフティ株式会社、1994)。台風通過地域の会員から積極的な情報が寄せられたといえる。

3.4 発言の量 目次へ

 発言の持つ情報量の目安として、各発言中の文字数をカウントした。なお、この文字数にはタイトルヘッダ部の文字数も含まれている。また、本文中の句読点、スペースは原則として1文字としてカウントしている。空白行はカウントしていない。

 カウントの結果、各発言の平均文字数は324文字、最大文字数は1991文字、最小文字数は66文字となった。文字数を100発言で区切って頻度を調べると(図7)、90%以上の発言は600文字以下であり、ことに100〜200文字の発言が最も多くなっている。

 パソコン通信では、1行を40文字以内とすることが多い。ちなみに、最も標準的なNECのPC9801系のパソコンでは、通常1画面に40文字×25行(1000文字)程度の表示が可能である。パソコン通信の発言で1画面いっぱいに文字を詰めて書くことはほとんどないので、今回の掲示板での発言のほとんどは、ほぼパソコン1画面に表示される程度の文字数であり、最も多かったのは5行程度の発言であったといえる。

3.5 発言内容の特徴 目次へ

 各発言を参照し、含まれている内容を表2の11項目に分類し、集計した。なお、1発言中に複数の内容が含まれている場合はそれぞれの分類に含めた。

 集計結果を図8に示す。発言のほとんどは何らかの情報を提供するものであった。特定の場所の状況などを問い合わせる発言も18発言あったが、いずれも質問内容は「○○地方の状況はどうですか」といった具体性のないものであり、有効な回答が寄せられたものはほとんどなかった。最も多かった発言内容は、発信者の居住地からみた風雨の強さなど、周囲状況を伝えるものであり、以下、台風そのものに関する情報、交通機関に関する情報と続いている。

 発言の情報源に着目すると、自宅や勤務先、通勤途上などでの観察を元にしたものが85発言と最も多く、テレビ、ラジオ等の報道をもとにしたものは44発言であった。また、情報源を特定できない発言も76件とかなり多かった。

3.6 発言タイトルと参照の傾向 目次へ

 電子掲示板で登録されている発言は、登録発言一覧(図2)で表示される発言タイトルから発言内容を予想し、参照の有無を選択することが多い。いわば、新聞のテレビ欄を見て番組を選ぶのと同様な方式である。従って、タイトルに含まれる情報と、その発言の参照数との関連を調べることによって、参照者が求めている情報内容の傾向をうかがうことができるであろう。

 ここでは先の発言本文の内容分類(表2)を利用してタイトルに含まれる情報を分類し、参照数との関連を調べた(図9、図10)。タイトルから周囲状況を伝えていると思われる発言は、発言数では90発言と半数近く占めているが、一発言当たりの平均参照数では343.7回と、それほど多くない。一方、タイトルから台風そのものの情報と思われる発言は発言数では31と少ないが、平均参照数は580.9回と、最も多くなっている。

 更に台風最接近時であり、掲示板の発言数も特に多かった3日6〜18時頃の発言に注目してみると、タイトル内容別発言数、平均参照数は図11、図12のようになる。発言数は交通情報、周囲状況、台風情報がいずれも同程度の数であり、全発言中の割合(図9)に比べて周囲状況を伝える発言が少ないことが特徴的である。平均参照数では、やはり台風に関する発言がもっとも多くなっており、周囲状況を伝える発言がこれに次ぐ。また、もっとも参照数が少ないのが交通情報であることも注目される。これは、交通情報の対象地域がが比較的せまいこと、参照の可能性があるのが交通機関を利用する人に限られてしまうためではないかと考えられる。

4. まとめ 目次へ

 台風9313号の接近時に大手商用パソコン通信ネットワークNIFTY-Serve上に臨時の電子掲示板が開設されたところ、3日間で200余の発言が登録され、のべ8万回余の参照があった。

 発言数の約6割は9月3日に登録され、ことに午後に多かった。発言の参照数は3日12〜18時頃に最も多かった。この時間帯は西日本の降水が強くなった時間帯に近く、通常のパソコン通信の利用が多くなる時間帯(夜間)とは異なる特徴を示した。これは、台風に関する新しい情報をリアルタイムに収集する手段として同掲示板が利用されていたことを示すものと思われる。一方、台風通過後は全く発言の登録はなく、被害や復旧状況などの情報交換手段としてはあまり活用されなかったといえる。

 発言は全国各地(32都府県)から寄せられ、台風通過地である西日本からのものが多く、パソコン通信利用者数の分布とは異なる特徴を示した。

 発言の量は概ねパソコン1画面に収まる程度のものが多かった。内容的には (A)発信者の周囲の状況を伝えるもの、(B)台風の位置などの情報、(C)交通情報などが多かった。発言の情報源は4割が発言者自身の観察によるものであり、2割が報道を元にしていた。また、情報源が不明な発言も4割ほどあった。

 参照者が参照の有無の判断材料とするタイトルの内容で分類しても、(A)が発言数・参照数とも最も多い。しかし、一発言当たりの参照数は(B)が最も多くなっている。このことから、参照者は台風そのものの情報により強い関心を持っているものと考えられる。

 今回の電子掲示板は台風というテーマの下に情報を寄せる「場」が提供されたのみで、情報収集・提供にはなんら計画・準備が行われたものではなかった。それにもかかわらず各地からこれだけの情報提供と利用があったことは注目される。しかし、一方で情報の信頼性や質についての懸念も存在する。