パソコン通信は電話回線に依存する情報媒体であるため、災害時に通信網が混乱すると利用が困難となる危険性がある。しかし、大手商用ネットのアクセスポイントは全国各地に展開しているため、被災地の電話回線が全く途絶しない限りは、いくつかのアクセスポイントを選択することによってアクセスを行える可能性がある。この点は特定回線間の通信である通常の電話による連絡・情報収集に比べて有利な点である。
災害時には、各人がそれぞれの持ち場を離れており、相互の連絡がとりにくい場面も多い。パソコン通信であれば、それぞれが都合の良い時間に情報を発信・受信できるので、確実な情報伝達という点でも有利である。
また、テレビ・ラジオによる情報と異なり、情報を記録・蓄積することが容易な点もパソコン通信の有利な点である。今回の発言中で見られた避難場所一覧や、交通機関の運行状況などは記録が残ることによって活用できる情報であろう。
更に、今回は少数例しか見られなかったが、質問に対して回答が寄せられ得る、双方向情報媒体であることも有利な点として挙げられる。
今回の事例では、特に事前の準備や計画的な運営が行われなかったにも関わらず、全国から数百件規模の情報が寄せられた。防災関係の専門家らによって準備・運営されれば、更に有効な情報媒体となることが期待される。そこで、筆者は防災情報専門の電子会議室を常時開設することを提案する(図13)。
この会議室は、防災及びネットワーク通信に関心を持つ研究者、学生等によって運営する。電子会議室の運営(発言の整理や情報の蓄積など)には、運営責任者(SYSOP)の他に数人の運営グループが必要になる。運営グループは、まず当学会内で有志を募り、その母体を構成し、さらにNifty-Serveにある関連するフォーラム(サイエンスフォーラム等)などで協力者の募集も行う。直接運営グループに加わらず、情報が必要となった際に協力してもらえるメンバーも確保しておく事が望ましい。これらのメンバーはネットワーク上で連絡を取り合うので、同じ組織内、地域内に居る必要はない。
防災情報会議室を開設する場(ネットワーク)はいろいろ考えられる。インターネット上なども選択肢となるが、所属機関等にかかわらず広範な人々による情報交換を目的とするためには、現時点では大手商用ネットの利用が効果的であろう。大手商用ネット中では、今回紹介したように災害時の電子掲示板開設に実績のあるNifty-Serveが有力な候補といえよう。なお、最近ではインターネットに接続された大学の研究室の端末等からもインターネットを通してNifty-Serveへの接続が可能になっている。そこで、ここでは、Nifty-Serve上に開設する前提で論議を進める。
この会議室は、Nifty-Serveの「フォーラム」的な形で開設されることが望ましい。フォーラムの形態にすることによって、電子掲示板に比べ、過去の発言を参照する方法が格段に向上するほか、関連する話題にコメントを付けることができるため、話の流れがつかみやすくなるというメリットがある。しかし、新たなフォーラムを開設するには、運営体制(スタッフ)の整備や、一定量のアクセスが見込まれることなど種々の条件を満たさねばならない。そこで、当初は小規模なものから始め、実績を積んでいく必要がある。
Nifty-Serveには、一定の追加料金(月額7000円)を支払うことによって、フォーラムの会議室と同等のシステムを個人的に開設できるサービスがあり、「パティオ」と呼ばれている。パティオは資金的な目処さえたてば誰でもいつでも開設できるので、防災情報会議室も、当初はここから始めるのがよいであろう。しかし、パティオは開設したとしてもそのままではその存在をNiftyの利用者が知ることができないという問題がある。開設当初は運営スタッフ間の連絡や、情報蓄積などの準備が必要となるため、クローズドな会議室であってもかまわないが、運営体制が整った後は、何らかのPR活動の必要がある。例えば、前述のサイエンスフォーラム等で定期的にPRを行えば効果的であろう。また、ニフティ株式会社のご協力が得られれば、災害時にNifty-Serveのオープニングメッセージ(Niftyに接続して最初に画面に現れる文章)で同会議室の存在をPRしていただける可能性もある。このようにして実績を積んでいけば、いずれは正式なフォーラムに昇格できる可能性は十分ある。
この会議室では、日頃から災害・防災に関する質疑応答などの情報交換を行う。研究者による「防災心得」のような連載などがあってもいいし、災害関係の学会やイベント等のプログラム、簡単な参加報告なども有益な情報となるであろう。また、参加者の中に降水量等の観測データが速やかに公開可能なシステムを所有している機関があれば、定期的にこれを会議室に報告してもらえれば有益である。
台風接近時等には、その現象に関連する情報交換を行う。今回の調査でも、パソコン通信利用者は台風の位置や勢力などの情報に関心を持っていることが示唆されたので、このような情報が随時会議室に登録されることが望ましい。気象関係機関から直接情報提供を得られれば最も好ましいが、それが不可能な場合でも、運営・協力者グループ内で担当者を決め、テレビ等の情報を要約して、定期的に会議室に登録するといった手法も有効であろう。
降水量等の生の観測値を公表することは、気象業務法上の制限があり、やや難しいが、「○○地区では1時間で牛乳瓶がいっぱいになったので××ミリ程度の降雨があるようだ」といったように発言方法を工夫すれば、より多くの情報を集めることも可能ではなかろうか。
また、最近ではNIFTY-Serve上で天気図や衛星画像などを取得することが可能になっているほか、鉄道フォーラムなどでは災害時の交通情報を書き込むための専用会議室を用意している。情報そのものに限らず、情報収集手段について会議室上でアナウンスするのも有益であろう。
災害時には一般からの情報提供も多くなることが予想されるが、専門家による運営グループが存在することによって、極端な誤報などに対しては、訂正や問い合わせのコメントを会議室上で行うことによって、情報の信頼性を向上することができるであろう。
災害発生後には、研究者が調査した災害報告速報などを会議室上に登録すれば、関心を集めるであろう。
参考のために、この会議室ができた際の情報交換の様子を想定し、例として以下に示す。このタイトル一覧や、発言のヘッダなどはNiftyの会議室の形式を踏襲しているが、発言者名、ID、発言内容などは、全く架空のものである。
まず会議室に入ったときに示される発言一覧は図14のようになる。電子会議室では電子掲示板と異なり、特定の発言へのコメントという形で発言できるので、各発言の相互関係がつかみやすい。各発言のコメント関係を図に示すと図15のようになる。この図は「コメントツリー」と呼ばれ、Niftyにアクセス中の画面では表示されないが、設定により、発言を発言番号順(この例なら1-2-3-4-5-6)でなく、コメント順(1-2-4-5-3-6)に読むことは可能である。発言の例としては図16のようなものが考えられるだろう。この発言に対して図17のようなコメントが付けられ、話題が続いていくことになる。