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2006年7月梅雨前線豪雨災害
平成18年7月豪雨研究関係情報
(2006年7月梅雨前線豪雨災害)
静岡大学防災総合センター 教授 牛山 素行
2006/07/19作成開始
本ページの記述は,すべてページ作成時の速報的なものであり,完全なものではありません.間違いがあった場合は修正するなどしていますが,基本的には作成後,大きな変更はしませんのでご承知下さい.また,不適切な表現に気がつかれた場合は,こちらまでお知らせいただければ幸いです.まとまった情報更新を行った際にはメ-ルマガジンでお知らせいたします.また,別館(ブログ)でも最新状況について触れます.
刊行物
災害概要
気象庁は7月26日,平成18年7月15日から24日に発生した豪雨について「平成18年7月豪雨」と命名した.本ページでは,この期間中の豪雨及び災害を,下記の2種に大別して整理する.
7月18〜19日の長野県を中心とした豪雨災害(岡谷市・諏訪市・辰野町等)
2006年7月15日頃から,梅雨前線が中国,北陸,中部地方付近に停滞し,断続的に豪雨をもたらした.24時間降水量のAMeDAS観測開始以降最大値 (統計期間20年以上)が記録されるようになったのは18日以降(同日は3カ所)であった.19日に24時間降水量最大値を更新したAMeDAS観測所は長野県を中心に11ヶ所(1時間降水量更新は同日無し)となった.18日から19日にかけて,島根,福井,長野などで,主に土砂災害による人的被害や家屋の損壊が発生した(GLIDE:FL-2006-000102-JPN, MS-2006-000102-JPN).20日08時の消防庁資料によると,この災害による死者・不明者は全国で20名となっている.最も被害が多かったのは長野県で,岡谷市,諏訪市,辰野町などを中心に,死者不明者11名,床上浸水1043棟などとなっている.長野県で直接的に豪雨災害によって10名以上の被害が生じたのは1981年以来のことであり,浸水被害も1981年8月,1983年9月の事例に次ぐ規模となった.
7月22〜23日の九州南部を中心とした豪雨災害
2006年7月21日頃から,梅雨前線が九州付近に停滞し,主に熊本県,宮崎県,鹿児島県の九州南部に豪雨をもたらした.豪雨のピークは22日の日中で,鹿児島県阿久根で23日7時までの24時間降水量が620mmとなるなど,24時間,48時間などの長時間の降水量に大きな値が記録された.この豪雨により,鹿児島県川内川流域,米ノ津川流域などの各地で堤防からの越水が発生したほか,各地で土砂災害も発生した.25日8時半現在の消防庁資料によると,この豪雨により,鹿児島県で死者不明者5名,全壊27棟,床上浸水1629棟などの被害(7月以降の被害の合計)を生じており,この値は更に大きくなる可能性が高い.この被害は,鹿児島県にとっては,人的被害は極度に大きなものにはならなかったが,浸水被害は,1993年7〜8月に立て続いた3つの豪雨災害事例(平成5年8月豪雨)や,1971年8月の台風19号による災害などに次ぐ規模となる可能性が高い.
当方の対応の記録
- 7/10以降 順次情報収集
- 7/19 9時 本ページ開設(表紙のみ)
- 7/19 13時 19日現在の降水量更新観測所のページを追加
- 7/19 その他幾つかのページを追加
- 7/20 2006年7月17〜19日梅雨前線豪雨関係参考資料を公開
- 7/21 現地調査写真(岡谷市湊など)を追加
- 7/23 現地調査写真(辰野町小横川など)を追加,参考資料を大幅更新
- 7/24 九州南部豪雨災害関係の資料集積開始
- 7/25 九州南部豪雨災害関係の参考資料を公開
- 8/10 鹿児島県内の現地調査写真を公開
- 8/23 8/22の長野県岡谷市付近の現地調査写真を公開
オリジナル資料・現地調査資料
7月18〜19日の長野県を中心とした豪雨災害
7月22〜23日の九州南部を中心とした豪雨災害
本災害の特徴・特記事項
牛山が関心を持った事項のメモです.
- 長野県中部・豪雨空白域での豪雨
- 7/19に24時間降水量最大値を更新した長野県内のAMeDAS観測所の多く(松本,立科,諏訪,木曽平沢,辰野)は,「暖候期降水量に比べて24時間降水量のAMeDAS最大値がやや小さい」観測所で,筆者は「豪雨空白域」と呼んでいた地域である(牛山素行,2005:2004年新潟・福島,福井豪雨と豪雨空白域,水工学論文集,No.49,pp.445-450).また,この地域では,AMeDAS観測開始後の最大値も古い時代(1983年)に記録され,その後更新されていなかった.今回と同程度の人的被害を伴う豪雨災害も,1983年以降発生していなかった.このような地域では,災害に対する関心が低下している可能性もあり,被害軽減行動にマイナスの要因となっていなかったか,関心が持たれる.なお,だからといって「繰り返された災害,行政の怠慢」といった一方的な主張にはまったく賛同するつもりはないことを申し添えておきます.(06/07/21追記)
- 「たくさん雨が降ったところで災害が発生」ではない
- 19日19時のNHKニュースでは,「400mm以上の大雨が降ったところで災害が多発した」と報じていた.「たくさん雨が降ったところで災害が発生」するのではない.「その地域にとってたくさんの雨が降ったところで災害が発生」するのである.「400mm以上の大雨が降ったところ」の図だと,御嶽山とか,上高地とかが「豪雨域」になってしまう.今回,災害が多発している諏訪地方など長野県中部の24時間降水量は200mmそこそこで,多雨地の記録と比べると極小さなものである.(06/07/19記)
- 避難途中の被災
- NHKの報道によると,「出雲市では車で避難場所に向かった70歳代の夫婦と15歳の孫の3人の所在がわからなくなる」事例があり,19日13時のNHKニュースでは,このうち15歳の孫が遺体で発見されたとのことであった.避難途中に遭難・死亡するケースは実際には多くはない.しかし,「被害軽減行動」とはイコール避難とは限らないことも,考えなければならない.(06/07/19記)
- 長野県中部・1983年の豪雨災害
- 長野県中部では,1983年にも今回と大変よく似た豪雨災害に見舞われている.諏訪湖が氾濫し,周辺部の斜面で土砂災害が発生した.降水量もそれほど大きくは変わらないが,被害は今回の方が大きくなってしまった.(06/07/19記)
【参考】
台風198310による長野県諏訪市の出水
川に見る地域の特徴 −諏訪市街地を例として−[PDF]
- 「防災情報システム」の効果は
- 岡谷市では,「防災情報システム」として,緊急時のメール配信サービスを早い時期から(少なくとも2003年頃)行っていた.これが,今回どのように効果を発揮したのか,関心が持たれる.
- 「想定外の災害」と簡単に言えない時代に
- 今回の長野県を中心とした災害でも「こんな事が起こると思っていなかった」という声が散見されるが,もはや,このようなことは行政側も住民側も軽々しく言えない時代になりつつあるように感じる.主な災害発生箇所について考えてみると以下のようになる.
【岡谷市湊三丁目の土石流】住家被害・人的被害が発生した付近を流れる渓流は土石流危険渓流となっていた.土石流発生源頭部の渓流はこの渓流の支流で直接土石流危険渓流に指定されていなかったが,被災場所から見たら本質的な差ではない.
【岡谷市川岸東二丁目の土石流】土石流危険渓流で土石流が発生した.
【諏訪市中ノ沢川の土石流】土石流危険渓流で土石流が発生した.
【岡谷市上ノ原小学校裏の土石流】土石流危険渓流に指定されていなかったが,小学校を土石流堆積域としうる隣接渓流が土石流危険渓流に指定されていた.土石流が発生したのはこの支流.
【諏訪市街地の浸水】過去の浸水域とほとんど同じであった.
【土砂災害を警告する情報】長野地方気象台は,7月18日20時39分に,松本地域、諏訪地域、上伊那地域、木曽地域に大雨警報の重要変更(過去数年間で最も土砂災害の危険性が高まっています)を発表していた.
【情報の公開】上記の土石流危険渓流や,警報情報は,すべてインターネット上で公開されていた(諏訪市の洪水ハザードマップは確認できていない).
土砂災害をピンポイントで事前予測すること(なになに集落の裏が何時間後に崩れる,といった情報)は難しい.しかし,上で見たように,全く思いもよらないところで思いもよらないことが起こったかというと,そんなことはない.
- 降水量の「激しさ」は絶対値では表現しにくい
- 今回の豪雨では,「降り始めからの雨量が1200mmを超えた」などと報じられた.そのひとつは,鹿児島県の紫尾山で18〜23日に1237mmとなった.22〜23日は683mmで,同地点の48時間降水量の1979年以降最大値が581mmなので,確かに大きな値である.一方,もうひとつの「1200mmを超えた」観測所として,宮崎県のえびのがある.18〜23日に1264mm,22〜23日に829mmなので,大きな値のように見えるが,えびのの48時間降水量の1979年以降上位3位は1207mm,960mm,907mmで,今回の記録は上位3位にもならない.更にさかのぼれば,1971年に48時間1434mm,72時間1541mmなどの記録も持っている.降水量の「激しさ」は,絶対値の大きさではうまく表現できない.
- 小学校に土石流
- 今回の災害で,岡谷市の上ノ原小学校裏で土石流が発生し,体育館などに土砂が流入した.同小学校は指定避難場所となっていたが,当時この付近に避難勧告などは行われておらず,避難所としては使用されていなかったようである.また,生徒の使用する時間帯でもなかった.しかし,これらは偶然の結果であり,仮に早期の避難勧告が行われていたら,たいへん悲惨な結果が生じた恐れもある.意外かも知れないが,避難場所の災害に対する安全性は必ずしも検討されていない.筆者らの洪水災害に関する調査では,浸水想定区域内に指定避難場所が「ある」,というケースの方が,「ない」というケースよりずっと多い.(牛山素行・新村光男・召田幸大・山口兼由,2006:市町村による豪雨防災情報活用の実態分析,河川技術論文集,Vol.12,pp.163-168.[PDF]).これは,避難場所として使用可能な施設が限定されることを考えると,一概に批判は出来ない.被災の可能性がある施設であっても,建物内の位置によっては比較的安全な場所とそうでない場所もありうる.ここの場所に応じた,具体的な検討が重要だと思われる.
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関連リンク
※本災害に関しての網羅的なリンクを作成することを目指しているものではなく,筆者の調査研究上の必要に応じて作成しているものです.「なにそれが欠けているので入れて欲しい」とのご要望をいただいても当方の必要がない限り必ずしもご対応しないこともありますのでご了解下さい.
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- 本ページで使用しているAMeDASデータの図表は,日本気象協会との協力により当方で整備しているリアルタイム豪雨表示システムによるものです.
静岡大学防災総合センター 教授 牛山 素行
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