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2010年の梅雨前線による豪雨災害に関するメモ
2010年の梅雨前線による豪雨災害に関するメモ
静岡大学防災総合センター 教授 牛山 素行
2010/07/27作成開始
- 本ページの記述は,すべてページ作成時の速報的なものであり,完全なものではありません.本web中の記述は,基本的にページ作成時までの情報を元に作成しており,その後の更新はしていません.
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災害概要
2010年の梅雨期(九州~本州の入梅は6/12~6/16頃,梅雨明けは7/17~20頃)は,梅雨前線の活動が比較的活発で,特に7月に入ってから各地で洪水,土砂災害等による被害をもたらした.総務省消防庁の7月22日現在の資料によれば,6月11日から7月22日までの大雨による全国の被害を合計すると,死者・行方不明者19名,住家の全壊34棟,半壊17棟,床上浸水1751棟などとなった.
オリジナル資料
一連の災害の既往災害と比較した位置づけ
今梅雨期の災害を,発生箇所・発生日別に主な被害事例を挙げると以下のようになる.被害の値は,7月27日時点での各県の公表資料による.
- 7/3未明の鹿児島県付近での土砂災害.死者2名,全壊3棟,床上浸水1棟.
- 7/14日中の広島県瀬戸内海側での洪水・土砂災害.死者4名(それぞれ異なる4市町),全壊3棟,半壊4棟,床上浸水184棟.
- 7/15朝の山口県山陽小野田市などでの洪水災害.死者なし,全壊2棟,半壊24棟,床上浸水560棟.
- 7/15夜の岐阜県可児市,八百津町付近での洪水・土砂災害.死者不明者6名,全壊3棟,半壊なし,床上浸水120棟.
- 7/16未明の島根県松江市でのがけ崩れ災害.死者2名.半壊1棟,床上浸水なし.発生前18時間降水なし.
- 7/16夕方の広島県庄原市での土砂災害.死者1名,全壊14棟,半壊3棟.
これらの事例はいずれも時空間的に独立した事象である.いずれの事例も,被災範囲はごく局所的で,被害の規模(量)もそれほど多いものではない.たとえば,死者不明者が最も多かったのは7/15夜の岐阜県での6名だが,1事例・1府県での死者不明者が6名以上の豪雨災害事例は,気象庁資料を元に集計すると,1999~2008年の10年間に19事例(2002,2007年を除く毎年)発生している.床上浸水が最も多かったのは7/15朝の山口県での560棟だが,これは同様に27事例(2007年を除く毎年)が発生している.
左図は,気象庁資料を元に1971年以降の6月及び7月の豪雨による死者不明者数,住家の全壊等棟数(全壊・流失・全焼),床上浸水棟数を年別にグラフにしたものである.グラフ右端の点は,上記消防庁資料による値をプロットしたものでである.災害統計は,出典によって同じ年でも大きく異なることがあり,ましてや今年の値はまだ暫定的なものであり直接比較はでない.ただ,最近10年ほどと比較しても,今年の梅雨期の被害が特別に大きかったという状況ではないように思える(グラフ縦軸が対数であることに注意).
降水量の特徴
全国のAMeDAS観測所(統計期間20年以上)において,今梅雨期(6/12-7/20)に降水量の1979年以降最大値を更新した観測所を集計すると,下の表のようになる.1時間降水量を更新した観測所が9箇所,2時間降水量6箇所,24時間降水量5箇所,48時間降水量6箇所,72時間降水量12箇所だった.72時間降水量,つまり長時間の降水量の最大値を更新した観測所がやや目立った傾向がある.ただし,1時間降水量の最大値を更新し,かつ24,48,72時間降水量の最大値を更新した観測所は1箇所もなく,長時間降水量,短時間降水量の双方が激しかった観測所(このような場合に大きな災害が発生しやすい)は見られなかったことも特徴的である.
なお,今梅雨期の特徴は,長時間降水量が大きかったことである可能性は高い.気象庁の「6月の天候」によると,九州南部の6月降水量平年比は187%の「かなり多い」であった.
現地調査写真
人的被害の特徴
先に挙げたように,総務省消防庁の7月22日現在の資料によれば,6月11日から7月22日までの大雨による全国の死者・行方不明者は19名だった.県別の内訳は,長野1,岐阜6,島根3,広島5,宮崎1,鹿児島2である.これらの犠牲者について,筆者がこれまでに行っている豪雨災害時の人的被害に関する研究での調査手法にもとづき,分類を行った.
- 原因外力別犠牲者数は,土砂10名,河川6名,洪水3名だった.強風,高波による犠牲者は見られない.2004~2009年の犠牲者368名の集計では,洪水26.4%,河川20.1%,土砂34.8%なので,今梅雨期の原因別構成比では土砂の比率がやや多いが,総数がそもそも19名なので厳密に議論はできない,土砂の比率が最も高く,土砂,洪水,河川の3外力で大半を占めるという大局的な傾向は変わらない.
- 年代別犠牲者数は,65歳以上12名,65歳未満7名で,高齢者に偏在している.2004~2009年の集計では65歳以上56.5%であり,同様な傾向である.
- 遭難場所別犠牲者数は,屋外11名,屋内8名で,屋外がやや多かった.2004~2009年の集計では屋外64.4%であり,同様な傾向である.豪雨災害が起きるたびに「早期避難」「避難勧告の遅れ」が言われるが,屋外での帰省者の方がむしろ多数派であり,「自宅にいる人を早く避難させる」という方法によって,人的被害を大幅に軽減することは難しい.可児市の事例で見られた移動中の車の犠牲者はむしろポピュラーな遭難形態であり,こういった犠牲者を軽減するための方策を探ることの重要性を改めて強調したい.
- 危険があることを知った上で,自ら危険に近づいた事による犠牲者,すなわち「能動的な犠牲者」は6人が確認された.2004~2009年の集計では,能動的犠牲者が32.6%であり,同様な傾向である.今回の犠牲者中では,浸水を防ぐ目的と思われる土嚢を積む作業をしていて遭難した犠牲者が2名確認された.浸水や土砂災害は,「思いもかけないところ」などでは起こらない.起こるべきところで発生する.そのような危険な作業をする以外に方法はないのか,残念でたまらない.
このように,今梅雨期の人的被害に関しては,特に近年の傾向と大きく異なる特徴は見いだせない.
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- 本ページで使用しているAMeDASデータの図表は,日本気象協会との協力により当方で整備しているリアルタイム豪雨表示システムによるものです.
静岡大学防災総合センター 教授 牛山 素行
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