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豪雨災害時の人的被害に関する研究
豪雨災害時の人的被害に関する研究
近年,ソフト防災対策としての災害情報への期待が高まっている.しかし災害情報の効果は明瞭に現れにくく,漠然とした過度な期待が生じやすいことが懸念される.災害情報などのソフト対策は,既存のハード対策などを代替するものではなく,相互補完するものであると考えられる.他の災害対策との役割分担を図るためにも,災害情報による被害軽減の量的効果やその限界を実証する必要がある.
災害情報は主として人の避難を促すものであるから,その効果を端的に現すのは,人的被害の軽減量と考えられる.災害情報による人的被害軽減量を評価するためには,犠牲者の死亡状況を整理分類し,そのデータを元にそれぞれの死亡状況に対して災害情報がどのように関わる余地があったかを検討する必要がある.
我が国の自然災害による人的被害の原因に関しては,地震については阪神・淡路大震災時の調査1)をはじめ,いくつかの研究例2)がある.阪神大震災に関する死亡状況の分類からは「死者の大多数は地震直後に圧死」という結果が明らかとなり,それが,その後の積極的な建物耐震化の推進という対策(ハード・ソフトの中間的対策)につながっている.しかし,豪雨災害については,1982年長崎豪雨時にいくつかの検討3)が行われて以降,十分な検討は行われていない.
筆者は,近年の豪雨災害等を対象とし,人的被害発生状況についての情報蓄積を進め,災害情報による被害軽減量の推定を試みている.しかし,まだ事例数が少なく,分類方法や推定方法についての試行錯誤が続いている状況である.
- 消防科学総合センター編: 地域防災データ総覧 阪神・淡路大震災基礎データ編,消防科学総合センター,1997.
- 呂恒倹・宮野道雄:地震時の人的被害内訳に関するやや詳細な検討,大阪市立大学生活科学部紀要,No.41,pp.67-80,1993.
- 松田磐余・花井徳寶・望月利男:長崎豪雨災害と台風8210号災害による人的被害と対策上の諸問題,総合都市研究,No.23,pp.107-115,1984.
豪雨災害時の人的被害の分類方針
豪雨災害時の人的被害の分類方針は,事例調査を重ねて少しずつ改善している.2017年10月現在の分類法は以下のようになっている.
- 高波
- 沿岸部での犠牲者全般.高潮による浸水に伴うものは含まない.
【例】高波による家屋損壊による死亡,沿岸で作業中・見物中に波にさらわれた.
- 強風
- 風による犠牲者全般.竜巻等も含む.
【例】屋根などで作業中風にあおられて転落.飛来物に当たった.強風による倒木等に当たった.
- 洪水
- 在宅中,又は移動や避難の目的で行動中に,自らの意志とは関わりなく,浸水,河道外の洪水流に巻き込まれ死亡した者.高潮による浸水も含む.
【例】屋内浸水で溺死.歩行中,自動車運転中に流された.洪水流により所在の建物が流失し死亡.
- 土砂
- 在宅,または移動や避難の目的で行動中に,自らの意志とは関わりなく,土石流・崖崩れなど,あるいはそれらに破壊された構造物によって生き埋めとなり死亡した者
【例】土砂によって倒壊した家屋の下敷きになった.土石流・がけ崩れによって堆積した土砂に巻き込まれた.土石流等の流れに巻き込まれた.明瞭な土砂の堆積が認められる土砂流に巻き込まれた.
- 河川(2009年以降の集計で使用)
- 在宅中,又は移動や避難の目的で行動中に,溢水していない河川や用水路の河道内に転落して死亡した者.
【例】田や用水路の見回りに行き水路に転落.水路の障害物を除去しようとして転落.河道沿いの道を歩行,または走行中に水路に転落.橋台の陸側道路が欠損し,転落した.
- その他
- 他の分類に含むことが困難な犠牲者.外力に起因しない犠牲者(いわゆる関連死).情報が極めて乏しい犠牲者.
【例】河川敷生活者の死亡.避難中や復旧作業中に心筋梗塞.
関連する学会発表・論文等
- 牛山素行・金田資子・今村文彦,2004:防災情報による津波災害の人的被害軽減に関する実証的研究, 自然災害科学,Vol.23, No.3, pp.433-442.
- 牛山素行,2005:2004年台風23号による人的被害の特徴,自然災害科学,Vol.24, No.3, pp.257-265.
- 牛山素行・國分和香那,2007:平成18年7月豪雨による人的被害の分類[PDF],水工学論文集(CD-ROM),No.51,pp.565-570.
- 牛山素行・國分和香那,2006年10月6〜9日の発達した低気圧による北日本の豪雨災害[PDF],平成18年度東北地域災害科学研究集会,2007年1月14日.
- 牛山素行,2005〜2007年の豪雨災害による人的被害の分類,第26回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.219-220,2007年9月26日.
- 牛山素行,2007:2006年10月6日から9日に北日本で発生した豪雨災害時に見られた行方不明者覚知の遅れ[PDF],自然災害科学,Vol.23,No.3,pp.279-289.
- 牛山素行,2005〜2007年の豪雨災害による人的被害の分類(第2報)[PDF],平成19年度東北地域災害科学研究集会,2008年1月13日.
- 牛山素行,2008:2004〜2007年の豪雨災害による人的被害の原因分析,河川技術論文集,Vol.14,pp.175-180.
- 牛山素行・太田好乃,2009:平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震による死者・行方不明者の特徴,自然災害科学,Vol.28, No.1, pp.59-66.
- 2004〜2008年の豪雨災害による人的被害の原因分析(参考資料)
- 高柳夕芳・牛山素行,2004〜2008年の豪雨災害による人的被害の原因分析,日本災害情報学会第11回研究発表大会予稿集,pp.121-126,2009年10月24日.
- 牛山素行,2009年8月9日兵庫県佐用町を中心とした豪雨災害の特徴,平成21年度自然災害科学西部地区部会研究発表会,2010年2月12日.
- 牛山素行・高柳夕芳,近年の土砂災害による犠牲者の特徴,平成22年度砂防学会研究発表会概要集,pp.162-163,2010年5月26日.
- 高柳夕芳・牛山素行,静岡県における1970年代以降の豪雨災害による犠牲者の特徴,第29回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.149-150,2010年9月16日.
- 牛山素行・片田敏孝,2010:2009年8月佐用豪雨災害の教訓と課題,自然災害科学,Vol.29,No.2,pp.205-218.
- 牛山素行・高柳夕芳,2010:2004〜2009年の豪雨災害による死者・行方不明者の特徴,自然災害科学,Vol.29,No.3,pp.355-364.
- 牛山素行・高柳夕芳・横幕早季:年齢別にみた近年の豪雨災害による犠牲者の特徴,自然災害科学,Vol.30,No.3,pp.349-357,2011.
- 牛山素行・横幕早季:東日本大震災に伴う死者・行方不明者の特徴(速報),津波工学研究報告,,No.28,pp.117-128,2011.
- 牛山素行・横幕早季:特集 東日本大震災と災害情報 人的被害の特徴,災害情報,No.10,pp.7-13,2012
- 牛山素行・横幕早季:平成23年7月新潟・福島豪雨による災害の特徴,自然災害科学,Vol.30,No.4,pp.455-462,2012.
- 牛山素行・本間基寛・横幕早季・杉村晃一,陸前高田市・気仙沼市における東日本大震災による人的被害の特徴,第31回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.191-192,2012年9月19日.
- 杉村晃一・牛山素行・横幕早季・本間基寛,岩手県山田町における東日本大震災による人的被害の特徴,第31回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.129-130,2012年9月19日.
- 牛山素行・横幕早季,平成24年7月九州北部豪雨による人的被害の特徴,平成24年度自然災害科学西部地区部会研究発表会,2013年2月1日.
- 杉村晃一・牛山素行・本間基寛・横幕早季,避難猶予時間に着目した三陸海岸における東日本大震災津波犠牲者の特徴,平成24年度自然災害科学中部地区研究集会,pp.38-39,2013年3月2日.
- 牛山素行・横幕早季:発生場所別に見た近年の豪雨災害による犠牲者の特徴,災害情報,,No.11, pp.81-89,2013.
- 杉村晃一・牛山素行・横幕早季・本間基寛:避難猶予時間に着目した三陸海岸おける東日本大震災津波犠牲者の特徴 −道路網データを用いた解析から−,日本災害情報学会第15回研究発表大会予稿集,pp.214-217,2013年10月26日.
- 牛山素行:第7章 津波災害による人的・社会的影響 2 人的被害,東日本大震災合同調査報告 共通編2 津波の特性と被害,pp.175-181,2014.
- 牛山素行・本間基寛・横幕早季・杉村晃一:三陸地方における東北地方太平洋沖地震による津波犠牲者率と素因の関係,自然災害科学,Vol.33,No.3,pp.233-248,2014.
- 牛山素行・横幕早季:2013年伊豆大島および2014年南木曽町での豪雨災害時の犠牲者の特徴,平成26年度自然災害科学中部地区研究集会,pp.10-11,2015年3月7日.
- 牛山素行:2014年8月広島豪雨災害時の犠牲者の特徴,自然災害研究協議会中国地区部会研究論文集,No.1,pp.51-54,2015年3月21日.
- 牛山素行:2004〜2014年の豪雨災害による人的被害の原因分析,東北地域災害科学研究,No.51,pp.1-6,2015.
- 牛山素行・横幕早季:2014年8月広島豪雨による犠牲者の特徴,自然災害科学,Vol.34,特別号,pp.47-59,2015.
- 牛山素行:2014年末時点の資料にもとづく東日本大震災死者・行方不明者の特徴,津波工学研究報告,,No.32,pp.61-70,2015.
- 牛山素行:豪雨災害による人的被害,2015年度水工学に関する夏季研修会講義集 Aコース, pp.A-2-1〜A-2-19,2015.
- 牛山素行:土砂災害危険箇所と犠牲者発生位置の関係について,日本災害情報学会第16回研究発表大会予稿集,pp.52-53,2015年10月24日.
- 横幕早季・牛山素行:2003年の豪雨災害の人的被害の原因分析,日本災害情報学会第16回研究発表大会予稿集,pp.198-199,2015年10月25日.
- 横幕早季・牛山素行:2003年の豪雨災害の人的被害の原因分析(続報),平成27年度自然災害科学中部地区研究集会予稿集,pp.14-15,2016年3月5日.
- 津島俊介・牛山素行:1951〜2014年の台風の強さと死者・行方不明者の関係,平成27年度自然災害科学中部地区研究集会予稿集,pp.12-13,2016年3月5日.
- 牛山素行:平成27年9月関東・東北豪雨による犠牲者の特徴,土木学会論文集B1(水工学),Vol.72,No.4,pp.I_1297-I_1302,2016.
- 牛山素行:発生場所から見た平成27年9月関東・東北豪雨災害による犠牲者の特徴,河川技術論文集,Vol.22,,pp.309-314,2016.
- 牛山素行・横幕早季・杉村晃一:平成28年熊本地震による人的被害の特徴,自然災害科学,Vol.35,No.3,pp.203-215,2016.
- 牛山素行,2016年台風10号による人的被害の特徴(序報),平成28年度東北地域災害科学研究集会 講演予稿集,(ページ無し),2016年12月24日.
- 牛山素行:日本の風水害人的被害の経年変化に関する基礎的研究,土木学会論文集B1(水工学),Vol.73,No.4,pp.I_1369-I_1374,2017.
- 牛山素行・横幕早季:1999〜2016年の豪雨災害による人的被害の特徴,第36回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.53-54,2017年9月28日.
- 牛山素行・本間基寛・横幕早季・杉村晃一:平成29年7月九州北部豪雨による人的被害の特徴(序報),日本災害情報学会第19回研究発表大会予稿集,pp.190-191,2017年10月22日.
- 牛山素行・関谷直也:2016年台風10号災害による人的被害の特徴,自然災害科学,Vol.36,No.4,pp.429-446,2018.
- 牛山素行・横幕早季:2017年の豪雨災害による人的被害の特徴,東北地域災害科学研究,No.54,pp.131-136,2018.
- 牛山素行:豪雨災害による人的被害と地形の関係について,日本地理学会発表要旨集, No.93, p.76, 2018年3月22日.
- 牛山素行:近年の豪雨災害による家屋流失と人的被害の関係(序報),第37回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.141-142,2018年10月7日.
- 牛山素行・本間基寛・横幕早季・杉村晃一:平成30年7月豪雨による人的被害の特徴(序報),日本災害情報学会第20回研究発表大会予稿集,pp.4-5,2018年10月27日.
- 牛山素行:風水害犠牲者の傾向から見た「立退き避難」の難しさ,日本災害情報学会第21回研究発表大会予稿集,pp.30-31,2019年10月19日.
- 牛山素行・本間基寛・横幕早季・杉村晃一:平成30年7月豪雨災害による人的被害の特徴,自然災害科学,Vol.38,No.1,pp.29-54,2019.
- 牛山素行,2019年台風19号による人的被害の特徴(速報),令和元年度東北地域災害科学研究集会 講演予稿集,(ページ無し),2019年12月26日.
- 牛山素行:2019年台風19号による犠牲者発生場所の特徴,日本地理学会発表要旨集, No.96, p.__, 2020年3月28日
- 牛山素行:豪雨による人的被害発生場所と災害リスク情報の関係について,自然災害科学,Vol.38,No.4,pp.487-502,2020.
- 牛山素行:風水害犠牲者の分類名「避難行動なし」の再検討,日本自然災害学会第40回学術講演会講演概要集,pp.109-110,2021年9月12日.
- 牛山素行・本間基寛・横幕早季・杉村晃一:2019年台風19号による人的被害の特徴,自然災害科学,Vol.40,No.1,pp.81-102,2021
静岡大学防災総合センター 教授 牛山 素行
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