4.雨氷の成因 雨氷を生じる過冷却雨滴がどのように生成されるのかについての詳しい研究はあまりない。雨滴より小さい過冷却水滴の存在はそれほど珍しいものではなく、雲を作っている「雲粒」と呼ばれる水滴はほとんどが過冷却水滴である。しかし、雨滴の大きさで過冷却状態になることは少ない。一般には第3図のように、上空に0℃以上の層があり地表付近は0℃以下という気温の逆転状態の時に、そこを雨滴が通過すると過冷却状態となって雨氷を生じると説明されている(長野地方気象台,1988など)。気温が0℃前後で逆転している事が条件であるが、定量的な事はよくわかっていない。例えば1989年2月26日に長野県で雨氷が発生した事例(第4図)では、中部地方の上空1000〜2000m(900〜800mb面に相当)付近に0℃前後で最高4℃程度のの気温逆転層が存在していたことが指摘されている(牛山・宮崎,1991)。 |
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5.雨氷の形態 雨氷が発生すると、地表にあるものはすべて氷に包まれる。樹木であれば枝全体が氷に包まれ、枝の先端部にはつららが垂れ下がる。電線やガードレールなどの場合は、下側につららが並ぶ姿になるのが特徴である。大規模な雨氷発生では、その厚さは5cm以上にもなる。又、物体の周りに均等、あるいは下側につらら状に形成されるだけでなく、特定の方位に偏って形成される(第5図)ことがある。風向との関連が三沢(1923b)などによって指摘されている。 |
2.発生頻度 この調査からは約40事例が検索された。軽微なものを除外し、ある程度広域的に発生した事例の一覧が第4表である。はっきりした周期性があるわけではないが、被害をもたらすような雨氷現象の発生頻度は10年に1度程度といえよう。 | |
3.発生時季 時季的には12〜4月の冬季の現象である。中でも1月に多く、12、4月の発生はほとんどない。大規模な発生事例についてみてもやはり1月の事例が多い(第5表)。長野地方気象台(1988)によると、県内の気象官署の記録でも同様な傾向(第6表)がでている。 | |
4.発生地域 地域的には概ね中部以東の各地で見られる(第6図)。大規模な記録は北海道、千葉県、長野県、熊本県にある。記録が最も多いのは長野県である。この理由については今後の課題であるが、調査方法などの技術的理由とは考えにくい。 長野県内では中部を中心とした各市町村で発生、被害の記録があり、諏訪地方とその周辺で比較的多くの記録が残っている。 | |
5.発生時の気象 雨氷発生時の地上気圧配置は、二つ玉低気圧1)や南岸低気圧2)が通過中の場合が多い(第7表)。二つ玉低気圧でも、南岸低気圧から生じたものが多い。規模の大きかった事例(図中「顕著事例」)についてみても同様である。太平洋岸に大雪をもたらすような気圧配置の際に発生が多いといえる。 雨氷は過冷却水滴によってできるものであるから、雨氷を生じるときの天気はふつう雨である。記録のはっきりしてるものについて、発生前後の天気の変化を調べてみると第8表のようになる。雪が雨に変わって雨氷を生じた事例と、最初から雨である時点から雨氷を生じ始めた事例とほぼ同じくらいの数であるが、大規模な発生事例では後者の方が多くなっている。 気温については、発生前に異常高温があるといった説(長野地方気象台,1988など)もあるが、1989年の事例(牛山・宮崎,1991)や1991年の事例(牛山,1991b)のデータから言うと、発生地点ではそのような状況は見られない。鉛直方向の分布では、地上の資料からも気温逆転の存在が確認できた事が指摘されている(牛山・宮崎,1991;牛山,1991b)。 発生時の降水量や、風、あるいは湿度などの変化も興味が持たれるが、まだ十分な資料が蓄積されていないので、詳細は明らかにできない。 | |
6.発生時の状況 雨氷の発生開始時刻は、夜間である場合が多い(第9表)。大規模な発生の場合は、夕方から夜にかけて発生を開始したものが多い。低温状態の継続時間と関連があるものと思われる。なお、日中の発生開始例はほとんどないが、夜間に発生開始し日中まで成長を続けた例はいくつかある。 実際の発生開始は注意していないとよくわからない。筆者の観察によると、最初に発生を認識するのはガードレールや金属性の看板などの下部に垂れ下がるつららによってである。樹木や草本類への付着は、特に夜間は自動車内からの観察ではほとんど確認できない。日中は少し注意していればかなり遠距離まで確認できる。雨氷に包まれた森林は、通常の雪に包まれている場合よりも青白い色彩をしており、発生していない場所や、冠雪のある場所とは容易に区別ができる。 | |
7.発生場所と地形 三沢(1923)もすでに指摘していたように、雨氷現象は、ある地域内で面的に発生するものではなく、斜面方位や、標高帯など地形と何らかの関係を持って発生している。例えば1989年の事例では、霧ヶ峰、蓼科山の北側斜面1000〜1500m付近でのみ被害があり(第8図)、同標高帯でも南側斜面ではまったく被害がなかった。この問題については今後解析を進めて生きたい。 |