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2009年7月梅雨前線豪雨災害
平成21年7月中国・九州北部豪雨による豪雨災害研究関係情報
2009年7月21日の梅雨前線による豪雨災害研究関係情報(7/27までのページタイトル)
静岡大学防災総合センター 教授 牛山 素行
2009/07/21作成開始.7/22,23,25,26,28加筆
本ページの記述は,すべてページ作成時の速報的なものであり,完全なものではありません.間違いがあった場合は修正するなどしていますが,基本的には作成後,大きな変更はしませんのでご承知下さい.まとまった情報更新を行った際にはメ-ルマガジンでお知らせいたします.また,別館(ブログ)でも最新状況について触れます.
刊行物・行事等
災害概要
- 2009年7月21日,山口県南部の防府市付近を中心として,梅雨前線による豪雨が発生した.この豪雨により,防府市などで死者・行方不明者17名などの被害が生じている.全国で10名以上の人的被害を生じた豪雨災害は,2006年7月の平成18年7月豪雨以来であり,3年ぶりのまとまった規模の豪雨災害となった.山口県においても,1973年以来の人的被害規模の事例となった.
- 2009年7月27日,気象庁は7月21日の山口県付近での豪雨及び,7月24日以降の九州北部での豪雨を総称して「平成21年7月中国・九州北部豪雨」と命名した.これを受けて,本ページのページタイトルも,7月28日より「平成21年7月中国・九州北部豪雨による豪雨災害研究関係情報」と変更した.
オリジナル資料
特記事項
降水量
- 7/21に,全国のAMeDAS観測所(1979年以降で統計期間20年以上)で,1時間降水量の最大を更新した観測所は2カ所(山口県・桜山,柳井),24時間降水量は同1カ所(山口県・防府),48時間降水量は同2カ所(防府,下松),72時間降水量は1カ所(下松)となっている.すなわち,記録的な豪雨がもたらされた地域は限定的である.1時間降水量の最大値を更新した観測所は,被害の大きかった防府とは別の場所である.
48時間降水量分布図
- 被害の大きかった防府の24時間降水量が最大値を更新しはじめたのは21日17時で,多くの土砂災害が発生した12時時点では243.5mmと1979年以降2位で,最大値は更新されていなかった.ただし,48時間降水量の最大値を更新したのは同12時だった(257mm->285.5mm).72時間降水量は更新されなかった.最大1時間降水量は21日09時の63.5mmで,これは1979年以降2位(1位は68mm).大きいことは大きいが,突出した値ではない.
AMeDAS防府の降水量
- AMeDAS防府では7月21日に最大1時間降水量72.5mmが記録され,これが観測史上最大値となった,としている資料があるが,これは,任意の1分ごとに統計を取る最大60分降水量である.本稿で用いているのは毎正時の観測値を元にした1時間降水量であり,この統計値で見ると今回の記録は最大値にはならない.すなわち,いずれの情報も間違っているわけではない.最大60分降水量の統計値で見ると,1位は今回7/21の72.5mm,2位は2003/7/12の69mmであり,大差はない.したがって,「大きいことは大きいが,突出した値ではない」という見方は不適切だとは思えない.
- 各地で土砂災害が発生した21日12時頃の後も断続的に降雨が続き,21日23時の時点では,24時間降水量275mm(1979年以降最大値250mm),48時間降水量332mm(同257mm)となり,これらが防府におけるあらたな最大値となった.しかし,主な土砂移動現象が生じたのは21日12時頃であり,「21日の最大値」を,今回の災害をもたらした代表的な観測値としてことさらに強調することは適切でない.
AMeDAS防府の降水量−2
- ここで用いているのは気象庁AMeDAS観測所の観測値である.AMeDAS防府は,防府市街地の南西にあり,真尾の老人ホームの現場からは南西約10km,下右田の国道の現場からは南に約6kmの位置にある.土砂災害が多発した現場とは降水量が異なっていた可能性もあるが,真尾の現場から西に約1kmの位置にある国交省真尾雨量観測所でも,21日12時の24時間降水量245mm,48時間降水量274mmとなっており,両地点間で雨の降り方に極端な違いはなかったものと判断される.
両観測所の位置は,各地での現象に関する地図上のメモに記載.
- すなわち,本豪雨の特徴のひとつは,48時間程度のやや長い期間の降水量が大きかったことにある.また,豪雨のピークが10時前後,12時前後の2回に分かれていたことも特徴的である.
人的被害
- 7月22日の消防庁第7報によると,本事例による死者・行方不明者は,山口県防府市などで17名である.2006年7月以降の豪雨災害で最大規模の人的被害となった.
- 国道262号沿いの土砂災害は土石流と思われる.発生は1140頃とのことで降雨中に発生している.老人ホームの方も土石流と思われる.21日時点の情報を元に降雨終了後の発生と考えていたが,22日の情報では正午頃とのことで,とすると降雨中となる.
- 降雨のピークが2回あり,国道262,老人ホームともに1回目のピークの後に再び強まった雨の中と言うことになる.このことから,警戒しにくいタイミングの発生だった可能性がある.
- 豪雨時の老人ホームの被災によるまとまった犠牲者の発生は,1998年那須豪雨の福島県西郷村での事例と共通しているように思われる.
- 7月22日の消防庁第9報をもとに分類すると,死者・行方不明者の発生原因は,土砂によるもの14名,事故型3名.洪水によるものは確認されていない.ほとんどが土砂によるものであり,近年よく見られる豪雨災害による犠牲者の発生形態と見なせる.
- 分類法などについては,筆者の豪雨災害時の人的被害に関する研究を参照のこと.また,近年の豪雨災害による犠牲者の発生状況については,2004〜2008年の豪雨災害による人的被害の原因分析も参照のこと.
その他
- 土砂災害発生時,防府市付近には土砂災害警戒情報が出されていた.また,防府市ではないが,近接する山口市付近で記録的短時間大雨情報が発表されていた.豪雨災害に特に注意を要する,大雨警報,土砂災害警戒情報,記録的短時間大雨情報の3種がそろっていたことになる.
- 国道262沿いで発生した土石流は,通行中の多数の車を押し流し,土砂に埋めた.そのうち1台の車内にいた1名が死亡,同乗者1名が行方不明となっている.車などでの移動中は危険な状態にあることを,あらためて注意喚起したい.
関連リンク
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- 各種情報
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- 本ページで使用しているAMeDASデータの図表は,日本気象協会との協力により当方で整備しているリアルタイム豪雨表示システムによるものです.
静岡大学防災総合センター 教授 牛山 素行
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