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2005年9月台風14号(0514号)豪雨災害
研究関係情報

静岡大学防災総合センター 教授  牛山 素行

2005/09/06作成開始

本ページの記述は,すべてページ作成時の速報的なものであり,完全なものではありません.間違いがあった場合は修正するなどしていますが,基本的には大きな変更はしていませんのでご承知下さい.また,不適切な表現に気がつかれた場合は,こちらまでお知らせいただければ幸いです.まとまった情報更新を行った際にはメ-ルマガジンでお知らせいたします

刊行物

災害概要

 台風0514号(アジア名NABI)および秋雨前線の活動により,2005年9月4日〜8日にかけて,九州,四国,中国,関東,北海道の各地で豪雨,強風,高潮等が発生し,これに伴い,死者不明者28名,床上・床下浸水家屋数約19000棟などの災害(GLIDE:TC-2005-000154-JPN)が発生した(9/12 07:30消防庁資料).特に浸水家屋数は,宮崎県内で未把握地域が残っており,かなり増える可能性がある.被害は,地域別に見ると,(1)4日深夜〜から5日未明にかけての首都圏での短時間豪雨のよる浸水災害,(2)6日終日の台風本体がもたらした豪雨による鹿児島,宮崎,大分,山口県付近での土砂災害および浸水災害,(3)7日〜8日の北海道における豪雨,強風災害に分けられる.人的被害は主に土砂災害によって生じたものであった.宮崎県内の大淀川,五ヶ瀬川など複数の河川で計画高水位を越える出水があったが,主要河川の大規模な破堤は発生していない.

当方の対応の記録

現地調査資料

現地調査写真 2005/9/10〜11  現地調査ルート

全写真の地図つきアルバム
2005/9/12記述.
北方町川水流(かわずる)付近
五ヶ瀬川にかかる高千穂鉄道の橋梁が完全に流失した現場.
日之影町 日之影川・五ヶ瀬川合流部付近
日之影町役場付近.高さ10m(最も高いところで),幅40mほどの河道から溢れ,両岸の家屋が浸水.
日之影町 日之影温泉駅付近
高千穂鉄道日之影駅構内.すぐ脇を流れる五ヶ瀬川からの溢水により構内が1m程度の浸水.路盤流失,軌道損壊.
日之影町神影(みかげ)付近
日之影町役場近くの五ヶ瀬川沿いの幅120mほどの狭い谷底に立地する集落.日之影町では全壊家屋35棟で,宮崎県内で最多.このうちの多くが神影地区で発生した.ほとんどは,洪水による家屋の損壊で,建物ごと流されたもの,壁などの損壊も見られ,単なる浸水域とは異なった様相が見られた.土石流と思われるものも少なくとも1箇所確認され,これにより1棟が損壊している.浸水当時住民は避難しており,人的被害は生じていない.(参考:宮崎日々新聞記事)
高千穂町向山付近
斜面崩壊を遠望.
高千穂町土呂久南付近
斜面崩壊,あるいは土石流により,家屋1棟が全壊し,住人の家族4名が死亡した.幅20mほどのごく狭い谷の中腹に立地した家屋で,谷の傾斜は家屋のすぐ裏側でも17度程度で,土石流の流下域としての条件が満たされていたと推定される.聞き取りによると,当時,被災者を含む周辺住民はほとんど避難行動を起こしていなかったようである.
延岡市古川町・岡富町付近
五ヶ瀬川下流部の住宅地の浸水.破堤の形跡はなく,内水や越水による浸水と思われる.国土交通省「台風14号と前線豪雨について(第16報)」では,延岡市岡富町で「外水」により516棟が床上浸水とあり,おそらくこの地区だと思われる.破堤はないが,堤体には所々堤内地側に崩れかけたと思われる箇所が見られた.
東郷町切瀬付近
耳川にかかる橋梁付近の側岸浸食,家屋浸水状況.
東郷町下三ケ(しもさんが)付近
斜面崩壊を遠望.
南郷村伍味付近
斜面崩壊を遠望.
南郷村神門(みかど) AMeDAS神門
今回の豪雨で,AMeDAS観測所中最大の24,48,72時間降水量を記録し,AMeDAS観測史上でも最大の48時間降水量を記録した観測所.付近の住民の話では,雨の強さ自体は夕立の時などに比べると強くなかったが,比較的強い雨が長時間続いたという印象とのこと.短時間降水量が記録的でなかったことを裏付けていると思われる.
南郷村神門(みかど)付近
神門付近ではいくつか斜面崩壊,土石流が見られた.神門集落の対岸斜面にも高さ120m程度(対岸からの簡易測量による概算)の崩壊が見られたが,家屋には影響していない.
東郷町福瀬付近
耳川下流部の浸水状況.取り残されたボート等.
宮崎市下小松付近
大谷川からの溢水による浸水で多数の床上浸水が生じた地区.洪水流によって流失した家屋は確認できない.一部の物置に流失と思われるものが見られたほか,,古いブロック積みなどの破損が見られた.

オリジナル資料

本災害の特徴・特記事項

牛山が関心を持った事項のメモです.
都市部での長期の断水
宮崎市を中心に,長期の断水があり,浸水による直接被害を受けなかった地域でも大きな影響を受けたことも特徴的である.宮崎日々新聞によると,宮崎市の「富吉浄水場は六日午前三時四十分ごろ、増水で施設が水没して運転を停止。五万世帯以上に水道水の供給ができなくなった」とのことである.同浄水場は,浸水とともに施設も破壊され,復旧に2ヶ月以上を要する事態となった.被災しなかった浄水場からの供給が行われたが,水圧が足りず,高台地区などの断水が続いた.9月10日未明から市内全域を夜間断水とし,浄水場に水を貯めて水圧を稼ぐことが試みられ,さらに9月10日夕方には,休止していた古い浄水場を復活させて給水量を増やし,9月15日現在解消に向かっているが,まだ完全ではないようである.地震災害時には,水道は最も長期に影響が残りやすいライフラインとして知られているが,豪雨災害によって,都市部でこれほど影響が出たことは比較的珍しいものと思われる.(05/09/15記,同夜一部修正)

宮崎市災害掲示板が機能した
機能しない,というのが常識だった行政開設の「災害掲示板」が見事に機能した.長くなったので→別ページへ(05/09/15記)

家屋被害は洪水によるものも少なくない
人的被害はほとんどが土砂災害によるものであったが,家屋被害は必ずしも土砂災害によるものではない.たとえば,今回全壊家屋が最も多かったのは宮崎県日之影町で35棟だが,これらの全壊被害の多くは,神影地区など五ヶ瀬川添いの谷底部での洪水によるものである.また,これらの全壊に伴う死者は生じていない.ただし,2004年の新潟豪雨などで見られたような,破堤点付近での洪水流による家屋の損壊という形態も見られていない(そもそも大規模な破堤が生じていない).(05/09/15記)

人的被害は土砂災害主体
総務省消防庁9月12日18時の資料によれば,死者・行方不明者29名中21名が土砂災害によるものであった.洪水によると思われるものは1名,いわゆる事故型(この分類については2004年台風23号の調査資料を参照)1名,その他・不明6名となっており,圧倒的に土砂災害による人的被害が大きかった.2004年のいくつかの災害では,洪水による死者が目立ち,近年の災害とは異なる様相を見せていたが,今回は,人的被害に関しては近年の豪雨災害と同様な特徴が見られると言える.65歳以上の高齢者は19名であり,6割以上を占めた.これも近年の豪雨災害と同様な特徴と言える.台風0423号の調査結果からは,洪水災害より,土砂災害において特に高齢者に被害が見られやすいことが示唆されており,今回もその傾向が確認されたことになるかもしれない.(05/09/13記)

宮崎県内で特に大きな被害
まだ被害高が確定していないが,死者・不明者13名,浸水家屋数7300棟以上である.宮崎県における1971年以降の主要豪雨災害を,死者3名以上,または床上浸水家屋数1000棟以上の条件で抽出すると5事例あった.死者12名の事例(1971/8/27-30)があるが,死者,浸水家屋数とも,宮崎県としては1971年以降最大となった.(2005/9/8記,9/13修正)
1971年以降の宮崎県の主要豪雨災害

広範囲での降水量極値更新
気象庁AMeDAS観測所のデータを元に,統計期間20年以上の観測所のみを対象として集計したところ,1時間降水量の更新観測所は0箇所,24時間降水量,48時間降水量の更新観測所はそれぞれ56箇所,64箇所たまたま数が同じだが,同じ観測所とは限らない.24時間降水量のみの更新観測所が3箇所5箇所,48時間のみが13箇所,24時間・48時間とも更新した観測所が52箇所51箇所であった.ここからも,今回の豪雨は,長時間降水量が大きかったことに特徴があることが伺える.筆者が同様な集計を行うようになった2002年以降最大の更新観測所数である.(2005/9/8記,10/8修正)
2005/9/5-7に降水量最大値を更新したAMeDAS観測所(再集計版)
2005年9月6日に1時間,24時間降水量記録を更新したAMeDAS観測所

24,48時間雨量が大きいが突出した短時間雨量が記録されていない
24時間降水量の最大値は,AMeDAS神門(宮崎県東臼杵郡南郷村大字神門)での933mm(9/6 13時)で,これはAMeDAS全地点の統計開始(1979)以降最大値である1998/9/25の高知県繁藤での979mmに次ぐ記録となった.神門の48時間降水量は,1238mmに達し,これはAMeDAS全地点の最大値である1154mm(2004/8/2,徳島県旭丸)を超過した.このように,長い時間の降水量がきわめて大きく,かつ,その範囲も広かったことが今回の特徴である.しかし,短時間降水量には突出した記録が見られない.1時間降水量の最大値を更新したAMeDAS観測所は,9月5日〜7日の間,全国に1箇所もない.神門の記録を見ると,40〜50mm/h前後の激しい雨が16時間程度続いているが,最大値は67mmであった.無論,激しい雨であることは確かだが,神門の1時間降水量の上位記録は,122mm, 82mm, 78mmなどとなっており,この地域としては記録的な短時間豪雨というわけではない.(2005/9/8修正)
2005年9月6日に1時間,24時間降水量記録を更新したAMeDAS観測所
2005/9/5-7に降水量最大値を更新したAMeDAS観測所(再集計版)
過去の豪雨との比較


さいたま市南区での洪水死者
台風0514号の接近に伴う前線の活動により,4日深夜から5日未明にかけて首都圏で豪雨が発生した.この際に,さいたま市南区文蔵で61歳の男性が流されて死亡した.近くでこの男性の息子の車が浸水で取り残され,そこへ向かっている途中であったらしく,当時付近は成人の腰のあたりまで浸水していたらしい(読売,時事,共同).これは,2004年台風23号の際に多発した洪水そのものによる犠牲者である.ここ20年ほどこういった死者は目立っていなかったが,けしてなくなったわけではないことが,今回も確認されてしまったことになる.

その他,気になっている事項
  • 鹿児島県垂水市新城の土砂災害により死者3名,「3人はいずれも独り暮らしで、台風などの際には1軒に集まっていたといい、この日もミチエさん方に身を寄せ合っていたらしい」(時事通信9/7)とのこと.避災行動をとっていた中での犠牲者.(2005/9/7記)

関連リンク

※本災害に関しての網羅的なリンクを作成することを目指しているものではなく,筆者の調査研究上の必要に応じて作成しているものです.「なにそれが欠けているので入れて欲しい」とのご要望をいただいても当方の必要がない限り必ずしもご対応しないこともありますのでご了解下さい.

静岡大学防災総合センター 教授  牛山 素行
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